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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2013年01月09日(水) 書評:ギャンブル依存との向きあい方(その1) 書籍『ギャンブル依存との向きあい方』の評を何回かに分けてお送りします。
本人・家族・支援者のための ギャンブル依存との向きあい方
〜一人ひとりにあわせた支援で平穏な暮らしを取り戻す
認定NPO法人ワンデーポート/編
中村努・高澤和彦・稲村厚/著
明石書店
http://www.akashi.co.jp/book/b102419.html
僕らは「ギャンブル依存症」という言葉を使いますが、まだそれは依存症として完全に認知されたわけではありません。病気の国際的な診断基準(IDC-10)でも、アメリカ精神医学界の基準(DSM-IV)でも、依存症のカテゴリに入れられているのは、アルコールその他の薬物だけです。
(病的賭博は別の「衝動制御の障害」というカテゴリの中に、窃盗癖や放火癖と一緒に入れられています。2013年に発表される予定のDSM-5では、アディクション(嗜癖)というカテゴリが設けられ、そこにアルコール薬物依存と一緒にギャンブル依存も入る予定ですが、反対もあるようで蓋を開けてみなければ分かりません)
医学が保守的に構えている一方で、当事者のほうは先に走り出していました。1957年にはアメリカでギャンブラーズ・アノニマス(GA)が始まり、家族のためには翌1958年にギャマノンが始まっています。(それぞれ1989年、91年に日本でも始まっています)。そこではアルコールや薬物と同様に、12ステップを使った解決が提案されています。
AAの12ステップとGAの12ステップの間には微妙な違いもありますが、基本的に同じ手段が使えるということは、アルコールがやめられないのも、ギャンブルにハマるのも「同じアディクションであろう」という考えにつながります。
人がハマるのはアルコール(薬物)やギャンブルだけではありません。セックス、買い物、ネットなど、様々なものにハマるのも「依存症」であると考えられ、20世紀後半には様々なグループが誕生していきました。そうした当事者活動の観察から、「依存症」を三つに分類するコンセプトが生まれました。
1. 物質依存・・・・(アルコール、薬物)
2. プロセス依存・・(ギャンブル、買い物、セックス、ネット、食べ物)
3. 人間関係依存・・(共依存)
※食べ物を物質依存にカテゴリする場合もありますが、ここではプロセス依存に分類しました。
こうして最初はアルコールと薬物だけだったアディクションの概念が、次第に拡大されていくことになりました。たくさん誕生した新しい「依存症」が、本当にアルコールや薬物の依存症と同じ仕組みの病気なのか、同じ手法が使えるのか、検証されることはなく、援助職や当事者の分野で、依存症概念の拡大はほぼ無批判に受け入れられていきました。
また、依存症概念が拡大されていった時代は、アルコール依存の援助の中で発見された概念が普及した時期でもありました。その概念を象徴するのが、イネイブリング理論、底つき理論、タフラブ、直面化などのキーワードです。これらの概念やキーワードも、プロセス依存や共依存の分野に普及しました。
現在、アルコール・薬物の分野では、イネイブリング理論や底つき理論の有効性への疑問が出され、MATRIXや動機付け面接など新しい手法が提唱されています。ただ、その話は別の機会にしましょう。
ここで取り上げたいのは、アルコールだったりギャンブルだったりと対象が違っていても、同じ仕組みの病気なのかどうか。もっと話を進めて、同じギャンブルに「依存」している人が全員同じ仕組みの病気なのかどうか。そのことを突き詰めて考えることをせず、みんな同じ依存症と捉えていたのではなかったか。そして、同じアプローチが使えると思っていなかったか、ということです。
本書の3人の著者のうち、高澤さんはアルコールの援助職をした経験を持つ人で、中村さんはギャンブル依存の当事者で、かつアルコールの施設で自身が回復した人です。どちらも、現在はギャンブル依存を対象として援助を行う仕事をされています。お二方とも、最初はアルコールの手法がギャンブルにも使えると信じて活動していたものの、やがて「みんな同じ依存症」という考えの限界に気付き、丁寧なアセスメントと個別支援という方向を打ち出した人たちです。
・・・
僕自身の話をしましょう。
僕は3年前、ある用事でGAのミーティングに初めてお邪魔しました。本当はクローズドだったのですが、特別な計らいで会場の隅で分かち合いを聞かせてもらいました。ちょうど過払い金訴訟の盛んな頃で、戻ってきた金で借金が清算できて楽になったという話を聞きました。もう勝って返す必要がないのでギャンブルもしなくて済む。そんな話でしたが、後日聞いた話では、そうやって過払い金で借金を清算しても、やがてギャンブルに戻っていく人は多いのだそうです。なるほど、ギャンブラーにとっての借金は、アルコホーリックにとっての肝臓の数値みたいなものか、と納得しました。
その時点では、「みんな同じ依存症」という考えの限界には何も気がついていませんでした。
話をいったんアルコールの分野に戻します。
僕がAAにつながって最初の頃、依存症からの回復には「やる気」が必要だと言われました。「やる気」という言葉は、AAで使われるテキスト『12のステップと12の伝統』のステップ3のところにあり、やる気(意欲)こそが回復の鍵であるとされています。
数ある病気の中には、放っておいても自然に良くなりいつの間にか治っている病気もあります。しかし、依存症はそうではありません。依存症からの回復には本人の行動が必要であり、意欲が必要です。しかし、あまりに意欲が強調されすぎると、回復するもしないも本人次第ということになりがちです。回復できない人は、「本人のやる気が足りないから」で片づけられてしまいます。
しかし、本人はやる気に溢れているのに、再飲酒を繰り返してなかなか回復できないという、痛ましい例も珍しくありません。そうなると「回復は本人のやる気次第」とは言っていられなくなります。そこで、いままでの方法論が悪いのではないか、という話になりました。従来の「ミーティングでひたすら体験を分かち合う」というやり方で本当に良いのだろうか、という疑いが生じたのです。
元々AAには「12ステップ」という回復の方法論があります。しかし、近年のAAではこの12ステップがないがしろにされてきたと言っても過言ではありません。そこで、21世紀に入ってから、12ステップの原点である「ビッグブック」に沿ってステップに取り組もうとする運動が発生し、一定の成果を上げてきました。ミーティングで体験を分かち合っているだけではなし得なかった数々の回復例が生まれ、それまで意欲を持つことができなかった人が「やる気」の鍵を使って回復のドアを開け始めました。
その喜びがあまりに大きかったために、この(ビッグブックの)12ステップの万能性を信じた人も少なくありませんでした。僕も例外ではありませんでした。「この12ステップという道具を使えば、誰でも回復できる」・・・実際にはそうは問屋が卸しませんでした。12ステップでも回復できない人は存在しました。しかも無視できないほど多く。方法論が曖昧だったころは、回復できない原因を本人の意欲に求めれば良かったのですが、明確な方法論が導入されると、今度はその方法論に合わない人たちの存在が際立っていきました。
どうやら依存症とは別の問題があるのではないか? 意欲が無いと見なされている人たちは、本当にやる気がないのだろうか。それともそう見えるだけなのか。僕がそう考えだしたのは、2009年ごろでした。僕がネットに書いている雑記にも、この頃から発達障害という言葉がちらほら出てくるようになります。
特に注目していたのは自閉圏の発達障害でした(アスペルガー症候群・広汎性発達障害・PDDと呼ばれるもの)。自閉圏の人は、人の話に共感することが難しい人たちです。
ミーティングで他の人が体験を話しているのを聞くと、自分にも同じような体験があるのが思い出され、自分が話す番が来たらその話をします。そうやって他の人の話と自分の体験が「重ね合わされ」ていくのが、ミーティングにおける「分かち合い」です。それによって、自分の過去の行動の意味や問題点に気付き、自分を振り返ることができます。
ところが、この「重ね合わせ」や「分かち合い」に乗れない人たちがいます。彼らは他の人が何を話していようと、お構いなしに自分の話したいことを話します。他の人の話の些末なところに着目してしまうこともありますが、大局的には他の人の話にはあまり影響を受けません。他の人たちが「分かち合って」いる中で、(同じ場所にいながら)その輪から外れているのですが、本人にはその自覚がないようです。過去の自分の行動の意味を振り返ることは難しく、自省に結びついていきません。
こういう人たちは「自分の問題から目をそらしている」(否認している)とか、回復への意欲がないと見なされがちです。場合によっては、罪悪感を持っていないとまで見なされてしまうこともあります。
発達障害について学んでみると、こうした行動は自閉圏の特性ゆえだということが分かります。彼らは共感や自省や罪悪感を持つことができないのではなく、単に「ミーティング」という方法が合っていないだけなのです。また、12ステップも(自閉的な特性を持たない多数派のために作られたものである以上)、自閉圏の人が扱いづらい曖昧な概念を使っているので、その人に合わないということが起こり得ます。
発達障害以外にも、知的な障害を抱えている人もAAに来ますし、精神障害を抱えた人も来ます。それは一部の人たちに限られた問題です。AAは全員に「共通する問題」を解決するために、ミーティングや12ステップという「共通の解決方法」を使うところです。その人に固有の問題を解決するのに、別の方法論が必要になってくるのは、考えてみれば当たり前の話です。
それを「みんな同じ」で、みんながミーティングや12ステップで良くなるというのは、かなり無理があった話と言わざるを得ません。
(続きます)
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