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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2012年11月22日(木) 満足させると問題解決につながらない 1枚の紙をいただきました。医学雑誌のコピーで、論文の紹介記事のページです。
それは「患者を満足させると死亡率が上昇する」という題で、患者の満足度と、その後の死亡率の関連を見た、前向きコホート研究の結果が紹介されています。
患者が病院に行くのは病気を治すのが目的です。良質の医療が提供され病気が良くなれば、患者の満足度も上がるし、死亡率だって下がるはず、と普通考えますよね。しかし、満足度が上がると、死亡率も上昇するという意外な結果になったという話です。
患者の満足度の調査方法は、下記の5点を尋ねています。
1. 話を注意深く聞いてくれるか。
2. 理解しやすい言葉で説明してくれるか。
3. 患者自身が話したことを尊重してくれるか。
4. 十分な時間をかけたか。
5. 医療従事者から受けた医療サービスの10段階評価。
なるほど。1〜4の逆をやれば満足どころか不満が高まるのは明らかです。医者でも看護師でも患者の話をろくに聞いてくれず、説明の言葉は難しくて分からず、こちらの希望は無視されて、短時間診療で帰される・・のでは、不満も高まろうというものです。
ところがこの論文では、満足度が高い患者のほうが、その後の死亡率が高かった、という明らかな結果が出ています。
記事では、満足度の高さと死亡率の高さの関係を様々に考察していますが、そこはざっくり省略するとして、結論的には「医者が患者の希望を常に取り入れることは、最善の医療につながらない。時には患者の満足度を犠牲にしてでも、自分のすすめようとする医療を提供すべき場面が意外と多いはずだ」というところに持ち込んでいます。
The cost of satisfaction: a national study of patient satisfaction, health care utilization, expenditures, and mortality.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22331982
話をよく聞いてくれて、こちらの希望も考慮してくれる医者が良い医者とは限らない、って話ですね。まあ、考えてみれば「常に希望を叶えてくれる存在は、問題の解決を阻害する」というのは、何にでもある話です。
なにか感情的な問題を抱えるたびに「カウンセラーに話してみる」という人がいます。その人によれば、話をよく聞いてくれるのが良いカウンセラーなのだそうです。話はするのですが、カウンセラーから言われたことはあまり聞き入れていないようです。単なる話の聞き役だったら、金のかかるカウンセラーじゃなくて、近所のおばちゃんに聞いてもらえば良いのじゃないか。聞き方が上手なカウンセラーって、そういう意味じゃないと思うけど。
自助グループだって、アットホームで「そのままのあなたで良いよ」という雰囲気が強いところは、あんまり問題解決に役立っていない印象です。
人間というのは承認不安を抱えているものですから、「そのままのあなたで良い」と言われれば安心します。ただ、人間が人間に無条件の承認を与えることは不可能です。生まれたばかりの赤ん坊は、世のため人のために役に立たなくても、ただただ可愛いと愛されて、おっぱいだ、おしめだ、おねむだと母親から世話をされます。赤ん坊は人間として無条件の承認を得るのに最も近いところにあります。
しかし、そんな可愛い赤ん坊でも、母親にとって、時に疎ましく不都合な存在になることもあります。人間が人間に無条件の承認を与えることはできず、それができるとしたら神さまだけです。(だから、神を否定することは、無条件の承認を諦め、承認不安を抱えて生きる選択をすることです)。
AAのミーティングは、グチをこぼしてストレスを解消する場所ではない、という話は以前にもしました。安心してグチを言える人間関係を作れない人が、ミーティングにグチを吐き出しに来ているという感じもします。酒のやめ始めには、そういうことも役に立つかも知れませんが、やがては、信頼できる人間関係を作れない自分の問題を見つめる時期が来るでしょう。
AAミーティングには目的があります。その目的に沿って話をすることは、自分の都合と合わない時もあります。しかし、常に自分にとって都合の良い場所(ミーティングでもグループでも人間関係でも)というのは、自分の回復や成長には役に立たない(少なくともそういう局面が多い)、と心にとめておいた方が良いでしょう。
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