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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2012年11月16日(金) 家族の飲酒について 「アルコール依存症者の家族が飲酒するのは避けた方が良いか?」という質問を頂きました。つまり、家族が一緒に酒をやめた方が良いか、という話です。
ややこしいので順を追って説明させて下さい。
断酒が安定して続いていくためには、様々な手段が考え出されています。そうした手段は大まかに二つに分けることができます。一つは内面が変化すること(回復)。もうひとつは、その人を取り巻く環境を変えることです(環境調整)。
で、環境調整も大事なのです。たとえば、過重労働でうつになった人が、復職するときに負担の少ない職場に異動することで、うつの再発を防いだりします。酒をやめるのだってなるべく酒をやめやすい環境を整えるに越したことはありません(クスリやギャンブルでも同じです)。
良く言われることは、酒から物理的に距離を取ることです。病院に入院するのも、アルコールから物理的に隔離する効果があります。家に酒を置かないのも一つの手段です。
酒をやめて1年ぐらいは、酒を飲みたいという強い欲望を感じることがしばしばあります(飲酒欲求)。この飲酒欲求には波があって、強い時もあれば弱い時もあります。とても強い飲酒欲求はあまり長続きせず、数分程度で弱まっていくとが多いのです。そのピークを乗り切ることが大切で、そんな時にAAのスポンサーや仲間に電話したり、あめ玉をなめるとか、その人なりの手段を身につける必要があります。
飲酒欲求のピークの時に、手近に酒があると手を出してしまいがち、というリスクはあります。そして、家の中に酒がある理由は、家族が酒を飲むから、という理由がほとんどです。(本人が飲むために持ち込んでいなければの話)。
もちろん、環境調整ですべて解決することはできません。僕らは酒が溢れる社会の中で生きて行かなければならないのですから、「近くに酒があるからやめられない」と言っていられません。酒をやめない言い訳に使われても困ってしまいます。
ではあるものの、出来る環境調整はやったほうが良いわけで、協力的な家族は一緒に酒をやめてくれることが多いものです。もちろん完全に断酒しているかどうか知りませんし、そんな必要もないでしょう。ともあれ、家の中で飲まないとか、外でしょっちゅう飲んで帰ってくるのを慎むとか、ぐらいに控えることはしてくれます。中には完全に止める家族もいます。
アルコール依存症でないなら、酒をやめることも、控えることも難しくないはずです。それが、やめることも、控えることもできないなら、家族も依存症である可能性を疑ってみた方が良いです。やめることも控えることもできない理由として、社会的なつきあいとか、ストレス解消などの理由を挙げる人もいますが、酒を一切飲まなくても社会生活に不都合がないことは、酒をやめ続けるアルコホーリックの姿が証明しています。
アメリカでは夫婦揃って依存症という例も少なくないそうです。日本はそこまで依存症者が多くありませんが、AAメンバーの親も酒がやめられない、という話はしばしばあります。相談の現場に本人しか登場しない(家族が現れない)、家族が酒を慎まないというケースは、家族の他の誰かも依存症である可能性を考えてみる必要があります。
クスリやギャンブルについても同じ事は言えます。
もちろん、上に書いたように、家族が酒を飲んでいるから俺もやめられない、と依存症症者本人に言わせてはいけないわけです。家族が酒をやめてくれなくても、本人は酒をやめ続けなければ問題は解決しません。それに、順調に酒をやめ続けて回復すれば、周りの人が飲んでいるかどうかはそれほど気にならなくなるものです。
また、家族内に複数の依存症者がいる場合でも、同時にやめられないのなら、誰かが一番最初に酒をやめるしかありません。あまりに環境が悪すぎて断酒が続かないというのであれば、別居するなどして、環境を改善するべきかもしれません。
ビッグブックを読むと、依存症者が回復し安定した後で、(来客に出すために)家に酒を置くかどうかは、初期のAAメンバーの間でも意見の統一がなかったようす。置くも置かないもそれぞれの家庭の事情に合わせれば良いとしています。しかし、ともあれ酒のやめ始めは、アルコールから物理的に距離を取ることが役立つのは確かです。順調にいけば、危険な時期は1年か2年で脱するのですから、それぐらいの期間は家族にも慎んでもらって悪くないと思います。家の仕事が酒を扱ってたりする場合は、家業を変えろとまでは言えないですが。
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