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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年11月06日(日) 処方薬への依存について(その2)常用量依存 依存と中毒を説明した雑記にも書きましたが、依存と依存症(アディクション)は別の概念です。依存とは身体依存のみを示す概念です。離脱症状があるからといって依存症とは限らないし、離脱症状のない依存症もあります。
常用量依存(臨床用量依存)には「症」がついていませんから、アディクションではありません。
それを説明する前に、また言葉の説明をしなくてはなりません。
午後11時に寝て朝6時に起きる、という理想的な睡眠を必要としている人がいるとします。この人が午後11時に布団に入ってもまんじりともせず、2時間ほど経って午前1時ぐらいになってようやく眠れるとしましょう。2時間も眠れずにいるのは辛いことです。するとこの人は「眠れなくなった」と考えるでしょう。
この人が医者にかかって不眠を訴え、医者がベンゾジアゼピン系の薬(例えばハルシオン)を睡眠薬として処方したとします。そして言いつけ通り10時半頃に薬を飲んで布団に入っていると、11時頃には眠れるようになりました。1週間ほど服薬を続けて、毎晩よく眠れるようになったので、薬を飲まなくなっても、やはり11時に眠れる状態に戻っている・・・これが理想的な経過です。
ところが薬を止めてみたら、夜1時にならないと眠れない元の状態に戻ってしまった・・これを「再燃」と呼びます。薬の効果が切れたら元に戻っちゃったのでまだ治療が必要だ、という分かりやすい状態です。
薬を止めてみたら、午前1時どころか、3時4時まで眠れなくなったとすれば、これは薬を飲み始める前と同じ不眠の症状ですが、それがさらに酷くなっています。これを「反跳(現象)」と呼びます。英語では rebound。ダイエットをやめたとたんに元の体重より増えてしまうことをリバウンドと呼ぶのをご存じでしょう。あれと同じです。
薬の反跳現象は一過性のものです。ベンゾジアゼピン系の場合には1〜2週間程度。その期間が過ぎれば、不眠が治っていれば11時に眠れるようになるし、再燃するにしても元の午前1時には眠れるように戻るわけです。
元と同じ症状(この場合は不眠)が出る場合は再燃あるいは反跳です。しかし、元とは違う症状が出る場合もあります。不安感が強まったり、頭痛、筋肉痛、食欲不振、知覚過敏、知覚異常などなど。てんかんの素質を持っている場合はそれが出たりします。これを「離脱症状」と呼びます。
再燃・反跳現象・離脱症状、この3つがあります。
で、アルコール依存症の人が断酒をすると、離脱症状として不眠傾向になるのは珍しくありません。そこで睡眠薬としてベンゾジアゼピン系が処方されます。それが1〜2週間で済めばいいのですが、その後もずっと飲み続けることになる場合があります(いやむしろそれが普通?)。
だからと言って処方薬依存「症」というわけではありません。それがアディクションではないのに、なぜ飲み続けているのか? それは薬をやめるとまた眠れなくなるからです。(抗不安剤として処方されている場合は、薬を止めると不安がぶり返すから)。つまり反跳現象や離脱症状を避けようとしているだけです。それを乗り越えれば、不眠や不安は解消して寛解状態、つまり治っている場合でも、長期間薬を飲み続けている場合が珍しくありません。
これを常用量依存(臨床用量依存)と呼びます(症がついていません)。
アルコール依存症の人は、元々不眠や不安を解消しようとしたのが酒の量が増えた原因だったりします。だから、睡眠薬を減量中止することで起こる反跳現象を嫌い、時には不眠への恐怖感すら持っています。このため減量による反跳不眠に強い不安を抱えます。これは離脱症状とは違うため、偽性離脱症状と呼ばれます。
常用量依存がODや依存症に発展しないのなら、何が問題なのか?
ひとつは認知機能が障害を受けることです。ベンゾジアゼピン系の中止前と後で、記憶機能の検査を行うと、断薬後のほうが記憶機能が改善します。
少し話がそれるのですが、WISC-IIIという知能検査があります。このIQの数値は、言語性(VIQ)と動作性(PIQ)に分けられますが、それぞれにさらに下位項目があります。人によってIQは高い・低いの違いがあるのは当然ですが、VIQ・PIQも下位項目もそれなりにバランスが取れているのが普通です。グラフを描くとほぼフラットになります。ところが発達障害の人の場合、このバランスが崩れしばしば凸凹が出現します。認知機能や処理能力にバラツキがあることがわかるわけです。
ところで、定型発達の人でもベンゾジアゼピン系の薬を飲んでいると、この凸凹が出現することが知られています。おかげで薬を飲んでいると、凸凹が薬のせいなのか発達障害のせいか、これだけでは判断できなくなってしまいます。このことは、薬が認知機能や処理能力に影響を与えることを示しています。
睡眠薬や抗不安剤を飲んでしばらくは、昼間もふらつきやめまいを感じた人は多いと思います。これは反射的な運動機能に影響しているわけです。しばらくするとめまいを感じなくなるのは、耐性が形成されたためです。前述の認知機能についても、耐性の形成により影響がなくなるのじゃないか、と期待されたわけですが、影響は長期的に残ります。
ベンゾジアゼピン系を飲んでいる人は、飲んだのが前夜ですでに作用がきれていても、昼間からどよよーん、ぼややーんとしたぼやけた印象を与えることが多いものです。これは認知機能や処理能力の低下が現れたものでしょう。だからわざわざ聞かなくても薬を飲んでいることは分かります。
もう一つは不安に対して不安剤として使っている場合です。長期服用者の場合、断薬することでむしろ不安が軽減することは珍しくありません。服薬のメリットよりデメリットのほうが大きくなっているわけです。また、注意力や集中力が断薬によって向上するという報告もあります。
すでに元の症状は寛解しているにもかかわらず、断薬による反跳や離脱症状を避けようと服薬を続け、それによって様々なデメリットを被っていることがわかります。これが常用量依存のデメリットです。
もちろん薬を飲み続けることが必要な人もいますから、飲むこと・やめること、それぞれのメリット・デメリットを考える必要があります。
(続く)
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