心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」

たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
もくじ過去へ未来へ


2011年11月04日(金) 処方薬への依存について(その1)ODと依存症

掲示板で、抗不安剤の依存について書いてくれとリクエストがありました。

よく名前を聞くベンゾジアゼピン系の薬を列挙してみます。
ハルシオン(通称青玉)、エリミン、ユーロジン、ドラール、ソラナックス、コンスタン、セルシン、ホリゾン、ホリゾン、デパス、ワイパックス、レキソタン、セニラン、セパゾン・・・。(デパスはチエノジアゼピン系だけど)。
これ以外にもたくさんありますし、最近はジェネリック医薬品もあるので、とてもすべてを挙げられませんが、精神科にかかって服薬したことのある人ならば、たいていベンゾジアゼピン系を飲んだことがあるはずです。

現在、睡眠薬や抗不安剤を処方されている人はたいてい当てはまるでしょう(非ベンゾジアゼピン系のアタラックスP2みたいな薬の場合もあります)。「安定剤を処方されている」という人も、メジャートランキライザーではなく、抗不安剤(マイナートランキライザー)としてワイパックスあたりが処方されていることが多いものです。

ベンゾジアゼピン系の乱用・依存問題を分類すると、大きく三つに分けられます。

・OD(オーバードーズ)
・依存症
・常用量依存(臨床用量依存)

ODは、何十錠、何百錠の薬を一度に服薬する自殺企図あるいは自傷行為です。松本俊彦先生は自傷行為が嗜癖化することを指摘しています。リストカットは一時的に生き延びる力を人に与えますが、やがてその効力が薄まるにつれ、生き延びる術を失って自殺念慮を抱くようになります。大量服薬も同じ線上にあります。(リスカをやる人とODをやる人は重なる)。
http://www.ieji.org/dilemma/2011/08/post-350.html

次に処方薬依存症ですが、これは他の薬物依存症と同じと考えて下さい。依存症の診断基準を満たすものです。つまり、まず耐性が形成され以前と同じ量では効果がなくなります。効果を求めて使用量が増え、薬を手に入れるために精神科医や薬局を2軒、3軒と周り、時には内科医からも薬をもらいます。量が増えたために酩酊している時間が長くなり、社会生活に影響が出てきます。

ベンゾジアゼピン系はそれ以前に使われていたバルビツール酸系に比べれば「安全」とされています。耐性ができたり、量が増えたりしにくいし、致死性も低いというわけです。しかし、依存症になる人がゼロというわけじゃありません。

特にアルコール依存症者はベンゾジアゼピン系薬物の依存症になりやすいことが指摘されています。作用機序が同じなのかどうかは知りませんが、抗不安剤のもたらす気分がアルコールのもたらす酩酊感と似ていることも関係しているのでしょう。また、アルコールとの併用によって効果が薄れ、抗不安剤の使用量増加を招きやすいこともあります。依存症者には慎重に投与するようにと注意喚起がされています。

特にハルシオンのような短期型のものを睡眠薬として使うと、すぐに効果が現れ、自然に近い睡眠が得られ、目覚めがスッキリしていることから、依存症者に好まれます。しかしこのタイプのほうが依存症になりやすいという落とし穴があります。

睡眠薬として使う場合には就寝30分ぐらい前に飲めば良く、すぐに布団に入っても構いません。しかし、アルコール依存症の人はこれを夕食後に飲んで薄い酩酊感を味わい、アルコールの代用にしたりします。短期型の場合には就寝前に効果が薄れて不眠になったり、中途覚醒でも服用して、耐性が形成され、使用量が増えてきます。やがてはより強い酩酊感を常時求める・・という依存症へと発展してしまいます。

きちんと服薬指導が行われればいいのですが、依存症に理解のある医者ばかりではありません。

例によって話が逸れるのですが、未断酒のアルコール依存症者の場合には飲酒量が増加するという指摘もあります。ベンゾジアゼピン系薬物にはアルコールへの欲求を強化する効果があるのでしょう。(アカンプロセートで飲酒欲求を低減しても、睡眠薬で飲酒欲求を強化したんじゃ意味がないのでは?)。確かになかなかきちんと断酒できない人は、抗不安剤や睡眠薬の服用が続いているものです。

ここまでODと依存症という二つの問題を取り上げました。ベンゾジアゼピン系は「安全」と言いますが、それはそれ以前の薬に比較しての話で、リスクは確かに存在します。医師や薬剤師はきちんと服薬指導して欲しいものです。過剰に心配しろというのではなく、正しい使い方を心がけねば、という話です。

アル中が睡眠薬や抗不安剤を飲みながら年単位で断酒を続けることはよくあることです。その全員が処方薬の依存症かといえばそんなことはありません。処方どおりに正しく薬を使っています。では問題ないのか・・・、実はそこに依存症とは言えない依存、常用量依存とか臨床用量依存と呼ばれるものが存在しています。

(続く)


もくじ過去へ未来へ

by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


My追加