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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年06月20日(月) 12のステップ AAの12のステップはここに掲載されています。
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/aa-jso/fsteps.htm
この短い12個の文章を読んだだけで、12のステップを理解できる人がいたとすれば、その人は超能力者か何かでしょう。というのも、この短い文章は言ってみれば「本の目次」みたいなものだからです。
目次を読んだだけで、本の内容もなんとなく理解できてしまう、ということもあります。だがそれで知ったかぶりをして本の中身について語ったりすれば、いずれどこかで大恥をかく羽目になります。
12のステップについても、人々がこの短い12個の文章から様々な想像を巡らせています。こうした想像が12ステップを巡る混乱が作り出された第一の原因でしょう。
内容を理解するためには、目次だけでなく中身も読む必要があります。でも、いったいどんな本を読んだらいいのか。実はAAには『12のステップと12の伝統』(通称12&12)という本があり、前半の12章が12のステップに、後半の12章が12の伝統にあてられています。そのせいで、
「この本が12ステップの解説書である」という誤解
が生まれてしまいます。実はこの本は12ステップの解説本ではありません。
12&12はAAの共同創始者のひとりビル・Wの著作です。12のステップはAAとほぼ同時に誕生し、アルコホーリクが酒を飲まずに生き残る指針を提供しました。それから10年以上が経過し、様々な経験が積み重ねられる中で、どうやら「AAグループ」が生き残るためには12のステップとは別の指針が必要だと分かってきました。そのためにまとめられたのが「12の伝統」です。
ビルは12の伝統をAA全体に広めようと努力し、そのために本の出版が企画されました。しかしその本は人気が出ないだろうと予測されました。というのも12の伝統そのものに人気がなかったからだと伝えられています。アル中は例え酒を飲んでいなくても、自分のやっていることにヨソから口出しされることを嫌います。だから新しい指針を押しつけと感じたようです。
そこで当時の理事たちは知恵を絞り、12ステップに関する文章も追加すれば、本を手にとってもらえるだろうと考えました。そうしてステップと伝統がカップリングされた本ができあがったのです。
しかし、ビルは新たに12ステップの文章を書くに当たってビッグブックとの重複を避けました。したがってこの12個のエッセイ(12&12にはこれがessayであると書かれています)には、ステップに関する重要な情報が欠落しています。例えば問題の本質として表現される「アレルギー」については、12&12にはほんのわずかしか触れられていません。12ステップのハイライトであるステップ4の棚卸しの書き方や、ステップ9の埋め合わせのやり方も書いてありません。
12&12におけるビルの文章は優れたものだと思います。それには彼の十数年にわたる進歩が反映されています(例えばその間にビルはカール・ユングと書簡を往復しており、その内容の反映があるといいます)。しかし、どうしても12&12は「ビッグブックの注釈集」みたいな様相を帯びてしまいます。ステップの基本を押さえた上で、より深く学ぶ人には適しているでしょうが、最初から12&12に取り組むのは迷路に迷い込むことになります。注釈ばかり読んで本文を読まないようなものです。
このように『12のステップと12の伝統』がステップの本だと思われ、皆がそれを手にしたことが、ステップに関する混乱が生じた第二の原因でしょう。
結局のところ、AAの12のステップを理解するためには、そのために書かれた本であるビッグブックを読むしかありません。ビッグブックがAAで basic text (基本的な教科書)とされるゆえんです。しかし、このビッグブックが決して分かりやすい本とは言えないことも困ったことなのですが、それについては次回。
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