心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年03月20日(日) 買い占め叩きはそろそろやめないか?

いつも使っているセルフのスタンドは全油種品切れでした。でもせっかく来たので洗車をして、ついでに店員に「灯油も品切れですか?」と聞いたら、本当はダメなんだけど一缶だけならと言われ、売ってもらいました。系列の別の店ならガソリンの在庫があるかもと言われ、出かけてみましたがそこも品切れ。さらに別の店でようやく20L入手しました。

2月と比べガソリンの値段が20円近く上がっています。ただし、震災前からリビア情勢で10円は上がっていたので、震災の価格への影響は限定的かも知れません。

ガソリンの買い占め行為はご遠慮下さいという広報を県がしています。ティッシュペーパーだったら自分の部屋を一杯にするぐらい買い占めることもできるでしょうが、ガソリンは自分の車を満タンにしたらそれ以上は無理です。灯油も似たようなもの。在庫の払底は買い占めのせいではないでしょう。

精油所が被害を受けて供給が少し減った・・それだけでこの混乱です。ちょっと需給バランスが崩れただけで店頭在庫が消える。それが今の日本経済の仕組みです。製造業では東北に工場を置いているところも少なくありません。(今はそれほど差がありませんが)昔は人件費が安かったからです。そうした工場の操業が止まっています。被害を受けていない工場も、インフラや物流が動かないせいで稼働できていないのです。

確かに不急不要の買い物をする人たちもいます。けれど、その人たちの行動が理由で店頭在庫が消えたわけではありません。いまや店の裏に倉庫を持って在庫を抱えている店は少なくなりました。必要な商品がその都度送られてくるのが普通です。だから、若干の供給の減少、物流の停滞、そして不安解消のための若干の需要増だけで、こんなになってしまうのです。

日本人は便乗値上げを嫌います(僕も嫌う)。でも功利主義者に言わせれば便乗値上げだって正当な経済行為です。値上げで需要が抑制されれば皆に少しずつ行き渡るようになります。利益を求めて遠くからでも商品供給が行われて需給バランスが回復します。悪いことではありません。でも日本人的価値観では、災害時の便乗値上げは悪質な利益追求だと解釈されてしまいます。だから値段の変わらないスーパーやコンビニからあっという間に商品が消えてしまい、皆に行き渡りません。

こうしてみれば、僕らの属する経済システムの弱点がさらけ出されたわけです。だから経済の話をせねばならないのに、「買い占めが悪い」というモラル論になってしまうところがいかにも日本人的です。

(ただ僕だって日本人なので、地震の翌日に買いに行ったらガソリンやティッシュペーパーが10倍の値段になっていたら怒るけど。でもそれなら買い占めは滅多に起こらず、みんな節約して多くを買わず、どうしても必要な人はどんなに金を出しても買うでしょう。これも一つの解決方法です)。

原発事故の対応を巡って、アメリカ政府の人が「日本人は合意形成に時間がかかるので、原発事故への対応が後手後手に回る」と批判していました。それはそうでしょう、アメリカ人はトップダウンの仕組みが好きです。というか、トップダウンでなければ動かない国なのでしょう。だからアメリカやフランスは大統領制を敷いています。日本で管首相が強権的な政治をやったら反発を喰らうだけでしょう。

テレビで被災地の悲惨な映像を繰り返し流しています。被災地では燃料が、避難所では食料が、病院では医薬品が足りないと延々やっています。あれにはちゃんと意味があるのです。あの映像情報によって、皆が「被災地に送るのを優先せねば」という合意がゆっくり形成されます。

そんな事態を予防しようとして、管首相が強権的な命令を出したらどうなるでしょう。現地でいろいろ足りなくなるのを見越して、(たとえばの話)関東以南では白ナンバー車への給油を禁止したらどうでしょう。営業車に燃料が回され、「品物はあるが被災地に運ぶ燃料がない」などという事態は回避されます。そんなふうに強烈なリーダーシップを発揮することは日本では許されていません。

誰かがいったんは悲惨な目に遭い、それを皆で共有して、じゃあ対策をしよう・・と、ゆっくり合意が形成される。良くも悪くもそれが日本人です。ただ、現地で悲惨な目に遭っている人はたまったもんではないでしょうが。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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