心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」

たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
もくじ過去へ未来へ


2010年08月09日(月) 自殺統計のいい加減さ

神戸のネタを引っ張ります。

総務省統計局が発表している「主要死因別死亡者数」のグラフを見てみましょう。
http://www.stat.go.jp/data/nihon/g4821.htm

1990年代に心疾患が減り、かわりに脳血管疾患が増えています。こんなふうに急に死因が変動したのにはからくりがあります。グラフの元になったデータを見てみると、心疾患というカテゴリには、下に4つのサブカテゴリがあります。急性心筋梗塞、その他の虚血性心疾患、不整脈、そして心不全です。変動以前には心不全が心疾患死のおよそ半分を占めていました(変動後は1/4程度に低下しています)。

死因としての心不全は「心臓が止まった」という意味です。人間死ぬときは心臓が止まるのは当然なので、心不全というのは実は死因について何も語っていないに等しいことになります。

病死の場合には医師が死亡診断書か死体検案書を書きます。病死であることが明らかな場合には、具体的な死因が不明でもその解明のためにわざわざ解剖を行ったりしません。外側から検案を行うのみで死因を判定します。その時に「心不全」という死因が多く書かれていたのです。

それに対して「死因をちゃんと判定していない」という批判があったために、厚生労働省が「心不全となるべく書くな」と指導した結果、かわりに脳梗塞が増えてしまったのです。

(その頃死亡診断書・死体検案書の書式が変わって心不全と書きづらくなった、という話も聞きました)。

こんなふうに日本の死因判定はいい加減で、あまり信用できたものではありません。

医師が明らかな病死ではないと判定した場合、警察に異常死として届け出がされます。警察では警官によって検視が行われ、犯罪が関係する疑いがある場合は司法解剖が行われます。そうでない場合は、監察医に回されて行政解剖が行われるはずですが、この仕組みが整っているのは東京・大阪・神戸だけで、他では解剖によらない検案が行われるのみです。

さて、ニュースによれば12年連続で自殺者が3万人を越えたそうです。

自殺死亡の年次推移
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/2.html

こちらのグラフでも1990年代後半に奇妙な現象が起きています。それまでの10年間ほど自殺者が年2万人程度で推移していたものが、急に3万人を越え、その後それが維持されています。

いったいこの年に何が起きたのか? 自殺者を急に1万人も増やすような社会変動があったのか? どうもそうではないようです。

先に書いた死因の判定プロセスを見ると、その理由が見えてきます。警察に届けられた異常死は、警官(検視官)によって犯罪による死かどうかが判定されます。明らかな自殺である場合には、犯罪と無関係なので監察医に回されてそれで警察の処理は終了です。しかし、犯罪となると司法解剖も必要だし、犯罪の捜査もしなくてはなりません。つまり、自殺と判断した方が、警察は仕事が減って助かることになります。

なので、厚生労働省が「なるべく心不全と書くな」と指導したように、警察庁が「なるべく自殺と判断して仕事を減らせ」という通達を出した・・・のかもしれません。それを裏付ける証拠はありませんが、そう考えればつじつまはあいます。

(予算不足、人手不足から司法解剖も犯罪死全体の数%しか行われていません)。

というわけで、日本の死因統計は、元になるデータがいい加減なので、あまり細かい数字を追いかけてみても意味がありません。

神戸での二日目の午前中は、自殺予防の話を続けて聞いていたのですが、その中に統計のいい加減さの話が出ていたので、改めて調べて雑記にまとめてみました。

自殺者の数はそれほど信用できる数字じゃありませんが、それでも自殺が交通事故死よりずっと多いことは確かです。いままでは自殺と関係のある精神疾患としてうつ病ばかりが取り上げられてきましたが、これからは依存症にも着目していかなければならない、という話でありました。


もくじ過去へ未来へ

by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


My追加