ホーム > 日々雑記 「たったひとつの冴えないやりかた」
たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2008年09月30日(火) 不思議と言えば不思議 単純に考えて、ビッグブックという本は、AAという集まりを広報(広告)するために出された本ではありません。
AAの最初の100人は「自分たちのメッセージと他に類のない体験を、世界中に伝えるため」に「本を出版する」という手段を選びました。それがビッグブックという本として結実したのです。
最初の100人は、AAを広める手段として、メンバーが全米あるいは世界中に散って、各地でAAグループを立ち上げていく方法は取りませんでした。同様に、スポンサーからスポンシーへと直にメッセージを伝えていくやり方だけに頼ることもできなかったのです。当時の彼らがそのことに固執していたなら、AAの広がりは遅々としたもので、半世紀たってもAAが世界で百万を超えるメンバーを抱えることもなかったでしょうし、日本にAAが伝わってもいなかったでしょう。
日本人の僕が今AAで飲まない生活をさせてもらっているのも、そうした彼らの決断のおかげです。とりあえずそれに感謝です。
ビッグブックの1939年初版の「個人の物語」の最後には "Lone Endeavor"(孤独な努力)というストーリィが載っていました。これはロサンゼルス在住のPatというアルコホーリクからの手紙です。Patはどうしようもない飲んだくれだったのですが、彼の母親が医者からAAのことを聞き、AAのオフィスに問い合わせてビッグブックの原稿を入手しました。
彼の手紙は、彼がビッグブックによって助かって、今では他の人たちの手助けを始めていると結ばれていました。ニューヨークのAAメンバーの興奮は大変なものでした。彼こそ「本だけによってメッセージが伝わった最初の例」だったからです。というわけで、彼の手紙は初版の入稿に間に合わせて掲載されることになりました。また、感激したメンバー達はカンパを募り、長距離バスの切符を買って、Patをニューヨークへと招待しました。
が・・・、メンバーが待ちかまえる中、ニューヨークに着いたバスからはPatが降りてきません。彼は長距離バスの中で飲んだくれてしまったのです。というわけで、初版の二刷りからは "Lone Endeavor" は削除されてしまいました。というドタバタ劇ですが、最初のメンバー達が「本によるメッセージの伝達」にいかに執心していたかを伝えるエピソードとして、僕はこの話が好きです。ちなみに、"Lone Endeavor" は「経験と力と希望」というAAの本に再録されています。
「私はビッグブックを信じている」と真顔で言う人たちが、なぜあの第二版の序の一節だけ信じようとしないのか、僕には不思議でなりません。いや、ビッグブックを詳しく読めば、あの本のあちこちに、「この本を読んで、孤独にステップをやって、ともかくその地域の最初の一人になって、他の人を助けてくれ」という強い意志を感じるものだと思いますが、どうやってそれを無視しているのでしょう。
まあ、人のことはどうでもいいか。自分のこと優先で。
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