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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2007年06月27日(水) 予備の原稿 むかーし、アルコール中毒の治療に「嫌酒療法」というのがあったそうです。
患者に抗酒剤を飲んでもらい、医師看護婦立ち会いのもとで、酒を少量飲んでもらいます。当然心臓ばくばく、顔は真っ赤っか、気分はゲロゲロとなります。これを一度だけでなく、入院中に定期的に繰り返しやると、酒を見ただけで気分が悪くなるようになる、まるでパブロフの犬です。
これで酒が嫌いになってくれると期待されたんですが、退院後半年か1年で飲んでしまうケースが大半だったそうです。条件反射が消えちゃうのでしょうか。まあ人間には知能もありますからね。それでも半年か1年は効果があったとも言えます。
いま嫌酒療法をやる病院はないでしょうが、繰り返しでなく一度だけ同じことをやる病院は結構あるようです。「飲酒テスト」などと呼ばれています。抗酒剤を飲みながら酒を飲むとどうなるか、退院前に体験してもらうことで、無用な再飲酒や救急車騒ぎを防げると期待があるようです。
実際、抗酒剤というのは救急の現場では大変評判の悪い薬で、同じ患者が何度も同じ騒ぎを起こすものだから、精神病院側に処方しないように申し入れがあったりするそうです。
抗酒剤服用なんてお構いなしに酒を飲んでしまう末期的患者には、精神病院としても「危なくて抗酒剤は処方できない」わけで、「俺は抗酒剤は出してもらっていない」と威張る人にはため息をつくしかありません。
「飲酒テスト」には実はもう一つ「裏の期待」があるとされています。嫌酒療法と同じで、酒を嫌いになってもらう期待がこもっているというのです。繰り返しやっても半年の効果しかない療法をなぜ(一回だけ)するのか? それには病院の都合もあって、2ヶ月も3ヶ月も入院した患者が、退院後すぐに飲んでしまうと、精神病院への入院を決断し、経済的負担もしている家族の方が「入院なんて意味なくね」とげんなりしてしまいます。たとえ数ヶ月であっても飲まない期間があった方が、その後の治療につながるんだそうです。たった一回の飲酒テストでも、退院時には「懲りた」と言っている人が多いことからも、それはうかがえます。
僕ですか? ええ、自主的に1回やりました。外泊の時の電車の中で。
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