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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2007年03月06日(火) 脳の変化 依存性のある薬物を、動物が好きなだけ自分で摂ることができるようにしておくと、摂取を繰り返す(つまり依存症になる)話は以前に書きました。そのとき、脳の中で起きている変化は、昔ながらの動物に強制的に薬物を与える実験とは異なるものであることも、書きました。
さて、脳の中には「報酬系」という仕組みがあります。報酬系を刺激されると、大変に気持ちが良い(らしい)のです。ラットの報酬系に電極を植え、ラットがスイッチを押すと刺激が加わるようにしておきます。すると、気持よさを求めてでしょうか、ラットは頻繁にスイッチを押すようになります。自己刺激行動といいます。
ラットにコカインを与えて、自己摂取する(人間で言えば依存症)ようにします。その上で、先ほどのスイッチと電極を試させます。すると、前より強い電流が流れないと「自己刺激行動」が起りません。薬物の自己摂取が、脳を変容させ、薬物以外への感度を低下させてしまったのです。
人間の薬物依存症者でも、薬物以外の報酬に対する感受性が下がるとされます。これも他のことに興味がなくなる変化が、脳の中で起きているのです。よくアル中さんが酒をやめるのに、「酒以外のことに興味を持てればいいのだが」と言うのですが、それはなかなかそれが難しいものです。
それは、酒以外のことに対して無感動になっている心の問題だけでなく、脳の中が「酒以外では、よほど強い刺激でないと感じなくなった」せいでもあります。スポーツで発散すれば、と言っても、スポーツから得られる感動が、普通の人よりずっと少ないのだから、無理な話です。
おそらくそういう鈍感さも、年月と共にホメオスタシスによって、元に戻っていくのでしょう。酒をやめて何ヶ月か経過したアル中さんが、「ふと見かけた花の美しさに感動した」というような話をするのも、そうした変化ではないかと思います。
アルコールは数日すれば体から抜けてしまいますが、脳に起った変化が元に戻るには、長い年月がかかるというお話でした。
ラリー・ニーヴンのSF小説に、脳に電極を植えて、自己刺激ばっかりしている未来を描いた場面がありました。リング・ワールドだったかな。
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