You are somebody very special to me - 2004年07月19日(月) 教会がどうだったか聞いてから、「それからどうしてた?」ってデイビッドは聞いた。わたしはオスカーからサイコセラピーを受けたことを話した。オスカーの質問に答えながらいろいろ話してるうちに、自分のイヤなイヤな行動や言動がどっから生まれてくるのかわかったこと。どうして「日本人」と「ex- ガールフレンド」にあんなに異常に反応するのかわかったこと。どうして「I wanna kill myself」なんて繰り返してしまうのかってこと。話してデイビッドが分かってくれたかどうかはわからない。多分、分からないまんまだと思う。それに、「友だち」セラピストのセラピーなんて客観的であり得ないとも言ってた。 デイビッドはオスカーのことをよく思ってない。オスカーが買って地下鉄に乗ってわざわざうちまで持って来てくれた自転車にもケチつけてた。知らない相手なら正直になれるって人はよく言うけど、わたしはなれない。知らないセラピストにわたしの過去やファミリーバックグラウンドを根掘り葉掘り聞かれて一から答えるのは嫌だ。オスカーは、わたしのことを既に知ってる。事実だけじゃなくて、それと一緒に引きずって来たわたしの心の中のイロイロも。オスカーはいつも手の平に救い取るようにわたしの気持ちを汲み取ってくれてた。だから、プロフェッショナルなセラピーをお願いした。 デイビッドはたった一度のセラピーでお終いってのも納得行かないみたいだった。お終いかどうか知らない。だけどそれより、セラピーを受けたって言う努力を認めて欲しかった。認めて欲しかった? ああ、それもわたしの問題なのかもしれない。 それでもきみの気分が軽くなったなら僕は嬉しいよ、ってデイビッドは言ったけど、正直言って「軽く」なったかどうか分からない。だけどわたし自身分からなかったことが分かって、自分が変われる可能性に安心したのは確かだった。 あなたがもし本当にもうお終いにしたいと決めるなら、それでもいい。わたしはもうそれでも大丈夫だよ。あなたの好きなように決めればいい。 「僕はブレイクアップしたいとは思ってないよ。それにきみはいつも僕に全部決めさせる。よくないよ」。土曜日にもおなじこと言ってた。どこに行くのも何をするのも全部僕任せだ、って。わたしが提案したことはいつも却下して、結局自分が決めてるくせに。そう言った。また言ってしまった。だけど声を荒げないで、言った。 ねえ、リレイションシップって難しいものだとわたしは思うの。いつもどこかで問題にぶつかって、それをひとつずつクリアしてるうちにまた別の問題が生まれたりして、ふたりが本当にいい関係を作ってくのには長い長い時間がかかるものだよ。わたしは自分自身をフィックスしたい。そしてあなたもそう思ってくれてなければコレは無理だけど、わたしたちのリレイションシップもわたしはフィックスしたい。わたしは努力する。だって、わたしにとってあなたはとても特別なんだもの。 「僕にとってもきみはとても特別だよ」。 言い終わらないうちにデイビッドが続けた。知ってる。どんなふうにお互いにお互いが特別か。だけど知ってる。下り始めた「好き」の気持ちは元に戻らない。デイビッドはロジカルな人だから、どんなふうにわたしが特別であっても。 神さまが会わせてくれた人。わたしはまだ信じてる。そうじゃなきゃ、こんなに、こんなに、わたしもデイビッドも・・・。 今日は仕事が終わってから、そのまま前に住んでたアパートのある街に走った。いつもののようにチビたちのごはんを買って、ドラッグストアでローションとかボディジェルを買って、高速を戻りながらわたしは自分の中のイーブルな悪魔が消えて無くなりかけてる気がしてた。しばらく時間を置いてみよう。すっかり悪魔が消えて変われるまで。 なのにうちに帰って来たら、とたんに痛くなる。メールを探してる。電話を待ってる。痛い痛い痛い。痛くてイヤだ。心配してジェニーが電話をくれたけど、昨日の電話のことも何も言えなかった。神さまにお祈りしたかったけど、何をどうお祈りすればいいのかわからなかった。もう弾きたくないって思ったキーボードの前に、意を決するみたいに座って、痛みを堪えながらカバーをはずす。 まだ電話を待ってた。デイビッドのバイオリンとわたしのピアノで併せたクロード・ボーリングを弾きながら。バイオリンが最初に入るところで胸が痛くなる。途中のソロがやっぱり上手く弾けない。何度も何度も弾いた。ショパンも弾いた。モーツァルトも弾いた。一度だけ聞かせてあげたノクターン。「これ弾けるんだよ」って、たまたまラジオでかかって大声あげたコンツェルト。ショパンのまだ弾いたことないワルツにも挑戦した。みんな、またデイビッドに聞かせてあげたいって思いながら。 電話はとうとうかかって来なかった。 -
|
|