プールのある大きなお家 - 2004年07月12日(月) 金曜日。病院のスタッフ専用のジムに初めて行ってみた。フィジカル・セラピーに行ってたジムと違って、マシーンの種類が豊富じゃない。わたしの一番のお気に入りのレッグプレスがないし、うつ伏せになってやる方のレッグカールもない。スタッフ用のフリーのジムなんだからしょうがないけど、2時間エクササイズしてうちに帰ったらすっごいくたびれてうとうとする。 デイビッドが電話をくれて目が覚めた。メールでまた週末ロードアイランドに行くかって書いてきてたけど、土日しかいられないのがつまんないからここで過ごすことにした。 リンカーン・シアターに「Fahrenheit 9/11」を観に行く。 デイビッドは観たくないけど観とかなきゃいけないって前から言ってて、それでも何度も観に行きかけてはやめてた映画。わたしは違う意味でこの映画にものすごい不快感を覚えた。すべてが事実であったにしても、バカにしすぎてる。気持ちのいいジョークじゃなくて笑えない。マイケル・ムーアに頭に来たけどあの映画を観て笑う観客が信じられない。わたしはブッシュの支持者じゃないし、戦争には何がなんでも反対だ。でも反戦がテーマだというなら、あんな映画にわたしは何もメッセージを感じない。残酷なシーンも悲しいシーンも、何を今さらと思ってしまう。よく出来た映画だなんてとても思えない。たとえわたしが究極のアンタイ・ブッシュだとしても、あれではフェアじゃなさすぎる。とにかく、不快な映画だった。 帰り道で入ったダイナーで、わたしが注文したフレンチ・フライにデイビッドがどばどばケチャップをかけて、それだけ食べながら「Fahrenheit 9/11」を延々語る。くたびれ果てて、ベッドに潜ったとたんにふたりして眠りに落ちる。 土曜日は、セントラル・パークのコンサートに行く。デイビッドの自転車にふたり乗り。わたしがサドルに座って、立ちっぱなしで自転車をこぐデイビッドの肩にしがみつく。デイビッドがときどきサドルにお尻を乗っけると、わたしは落っこちそうになる。足を乗せる場所もなくて、わたしは斜め下に足をぶらんと伸ばしたままで、しがみつく腕と伸ばした太腿がキンニクツウになった。どこかのお店の前で子どもたちに配ってた風船を、デイビッドは自転車で走りながらひとつもらってくれた。 セントラル・パークのコンサートは、デイビッドが時間を間違えて見損ねた。待ち合わせてた弟のダニエルはほんとに出来た人で、ちっとも怒らずに「久しぶりにセントラルパパークに来られただけで充分だよ」って言った。コンサート会場のステージに行く途中で見かけたジャズバンドを代わりに見に行く。芝生に転がって3人でおしゃべりして楽しかった。ブルーの風船をわたしは放してしまって、高い木の重なる葉っぱたちのあいだをすり抜けて青い空に見えなくなった。 日曜日は先週行ったアップステイトのレイクに行く。友だちは3週間休暇で留守にしていて、そのあいだプライベート・シェアのレイクに行く許可をもらってる。レイクは誰もいなかった。わたしはナターシャとたくさん泳いだ。デイビッドはあまり泳がずに本ばかり読んでた。行く途中で買ったサラミとホールウィートのパンでサンドイッチを作って食べて、誰もいないから、デイビッドはうつ伏せに寝転んだ水着のわたしの背中から乗っかって抱いた。熱い熱い陽射しを浴びて、くらくらした。最近どこにでも持ってくデイビッドがくれたキャッチ用のグラブとデイビッドの普通のグラブでベイスボールもした。 それから、そこから10分ほど離れたとこに住むデイビッドの別の友だちのところに行った。大きなおうちにはプールがあって、可愛い子どもたちと一緒に遊ぶ。ナターシャはプールに入れてもらえずにフェンスの周りを走り回っては泣くから、わたしは可哀想になって何度も芝生に出てはナターシャと追いかけっこしてた。奥さんはシュガー・レイが大好きな人で、わたしもマークが好きだって言ったら興奮して話が止まらない面白い人だった。夏とプールとシュガー・レイは似合う。デッキでBBQ をして、楽しかった。 デイビッドは、子どものころ自分ちにプールのある友だちが羨ましかったって言った。自分の両親はプールのある大きなお家になんか欲がなくて、代わりに子どもたちに音楽をやらせてるような親だったって。プールのある大きなお家に育った友だちは、プールのある大きなお家を建てて暮らしてる。だけどわたしは誰にもは授からない音楽の才能を自由に伸ばせたデイビッドのほうがうんとリッチだと思う。 そしてわたしはそんなデイビッドと、ずっと一緒に音楽を楽しみながら暮らしたい。プールのある大きなお家なんかなくても、デイビッドは何でもキラキラ楽しむ生き方を知ってる。わたしはプールのある大きなお家なんかいらない。そんなこと、デイビッドには内緒だけど。 ナターシャは子犬に戻ったみたいに駆け回る。 癌なんか、嘘だったらいいのに。 -
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