パンケーキ - 2004年06月16日(水) デイビッドがブルーになってた。 あのポジティブなデイビッドが、ときどきブルーになる。 誰でもそんなときはあるけど、昨日のデイビッドはひどく落ち込んでた。 電話を切った昨日の夜の10時。 わたしはシャワーを浴びてから、リトリート・センターで買ったハーフパイントのメイプルシロップのジャーとたまごをプラスティック・バッグに入れて、デイビッドんちに向かった。 わかんないけど、「これから気晴らしにひとりで映画でも観に行ってくるよ」って言ったデイビッドが、ひとりでいるのがイヤなふうに聞こえたから。 アパートに着いたらデイビッドはいなかった。アパートのビルのエントランスの階段に座って、帰ってくるのを待った。風が気持ちよくて、待つことなんか苦じゃなかった。お散歩に連れられたレトリバーの子犬が、わたしの手をぺろぺろ舐める。ティーンエイジの子たちが公園の囲いに乗っかって大騒ぎしてる。河沿いの公園から戻って来たお散歩の子犬がまたわたしの手をぺろぺろ舐めに来たのは、待ってから1時間近く経ったときだった。 携帯が鳴った。「どこにいるの?」「きみはどこにいるの?」「あなたはどこにいるのってば」。デイビッドは20ブロック向こうの映画館を出たとこだった。デイビッドんちのアパートの前にいるって言ったら「ほんとに?」って返って来た声が嬉しそうに聞こえた。 「こっから歩いて帰るから、きみもブロードウェイ沿いに歩いておいでよ。真ん中辺りで会えるだろ? それともそこで待ってる方がいい?」「行く」「じゃあ間違えないで東側を歩くんだよ」。 松葉杖なしで歩いてみた。数ブロック歩くとびっこになったけど、頑張って歩いた。24時間オープンのグローサリー・ストアの角から、デイビッドが手を振った。白いシャツがお店の明かりに浮かび上がってた。 「あんな電話したから可哀想に思って来てくれたの?」ってデイビッドは聞く。 ちょっと違う。わたしならきっと会いに来て欲しいと思ったからだった。 「明日の朝パンケーキを作ってあげたくなったの」ってたまごとリトリートのお土産のメイプルシロップを見せて答えたら、奥さんへの第一歩だなってからかわれちゃった。デイビッドは元気になってた。観に行った映画の「The Stepford Wives」がとても面白かったって。 たまごならたくさんあったのにってデイビッドは言って、グローサリー・ストアでミルクを買った。わたしは不思議なくらい松葉杖なしで上手く歩けた。 アパートの前の公園の石の囲いの上に座ってたくさんおしゃべりしたあと、「来てくれて嬉しいよ」って言ってくれた。 デイビッドより少し早く起きてわたしはパンケーキを焼いた。デイビッドの分とわたしの分と、それからナターシャの分にミニミニパンケーキを4枚。デイビッドは麻のシャツにタイを結んで、クライアントに会いに行く。わたしはシャワーを浴びてナターシャをお散歩に連れてってから、デイビッドにメモを残して言われた通りに鍵をドアマンに預けて、ドクターの診察のアポイントメントに行った。 Dr. ローズは診てくれるたびにわたしの膝の回復力に驚く。そして今日が最後の診察になった。まだ完全に歩けるわけじゃないけど、もうドクターが定期的に診る必要はないらしい。「とても大きな手術だったんだから、元に戻るまで忍耐強くリハビリしてくことを忘れちゃいけないよ」って Dr. ローズは言った。それから、7月から仕事に戻れるって言ってくれた。感謝の気持ちでいっぱいだった。「ありがとう、Dr. ローズ」。わたしはドクターに大きなハグをあげた。「どういたしまして。きみはよく頑張ったよ」。ドクターはぎゅうっと抱き締めてわたしの背中を何度もさすってくれた。 ナースのモリーンが、「悲しいでしょう、もうこことお別れなんて」って笑った。「うん、悲しい」「でもまたケガして戻って来ちゃだめよ」。 ほんとに少し悲しかった。どんな小さなお別れも、お別れは悲しい。だけど、なんかの試験にパスしたみたいに嬉しかった。そのまま前のアパートのある街まで運転した。チビたちのごはんを買いに。途中でデイビッドが電話をくれた。いつものように「診察どうだった?」って。「最後の診察だったんだよ」って言ったら、「まだちゃんと治ってないのに?」ってちょっと驚きながら、でも喜んでくれた。それから、明日の晩からまたロードアイランドに連れてってくれるって言った。だからチビたちのごはんを買ってから、パンケーキミックスを一箱買った。 -
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