バイオリンとピアノ - 2004年06月01日(火) 土曜日の夜にはデイビッドがクライアントの BBQ パーティに連れてってくれた。 金曜日と土曜日をデイビッドと一緒に過ごして、今週は日曜日にはちゃんと教会に行った。 それから夜に、またデイビッドんちに行く。従兄弟の従兄弟とそのガールフレンドとダニエルと、金曜日にチケットがどこも全部売り切れで観られなかった映画「the day after tomorrow 」を観に行くプランだった。デイビッドがインターネットでチケットを7枚買ったって言ったから、また ex-ex-ex-ex-ex- ガールフレンドと旦那さんが来るのかと思ったら違った。デイビッドったら間違えて1枚余計にチケット買ってた。 デイビッドんちの近所に住んでる売れないシンガー友だちのジュリエットが来た。 ジュリエットのことは何回か聞いてた。ものすごく魅力的な声で抜群に歌が上手いのに、売り出し時期を逃して30を超えてしまった元超美人でセクシーなジュリエット。 ジュリエットはとても素敵な女性だった。 わたしみたいにちっちゃいけど、「元」どころか「現役」超美人でセクシーだった。「10年前はもっと美人でセクシーだった」ってデイビッドは言うけど。おしゃべりでちょっとはすっぱで、クレイジーっぽいけどなんか頼もしくて、ラヴァブルでラヴリーでラヴィングで、そう、「love」のつく形容詞をみんなつけてあげたいような女性。その上わたしみたいに動物狂だから、わたしが大好きにならない理由がない。 多分わたしより年下なのに、わたしのことを妹みたいに扱って、わたしはお姉さんみたいに甘えてた。「味方」を得たみたいな気分で嬉しかった。 「the day after tomorrow 」は面白かった。 あの映画をシリアスに観るのはナンセンスだってデイビッドと意見が一致。気の利いたジョークがいっぱいだし、絵が奇麗で溜め息が出る。ジュリエットは地球温暖化について真面目に語ってたけど、わたしが捉えたメッセ―ジは「犬は賢い」と「約束は守ろう」。デイビッドは笑いながら大賛成してくれた。 昨日のメモリアル・デーは一緒にピアノとバイオリンの練習をした。デイビッドは61キーのヤマハの小さなキーボードを、少し前にわたしのために買ってくれた。クロード・ボーリングをデイビッドのバイオリンとわたしのピアノで合わせる。ジャズなんか弾くの初めてで難しかった。パラパラパラパラパラパラって鍵盤に指を走らせるジャズ特有のフレーズが上手く出来なくてデイビッドが笑う。楽しくて楽しくて、何度も何度も一緒に合わせた。61キーじゃ足らなくて、フルを買わなきゃなってデイビッドは言った。ずっと、一緒にしたかったこと。デイビッドのバイオリンとわたしのピアノの演奏。ああ、ほんとにずっと一緒にやりたい。ずっとずっとずっと。 デイビッドの従兄弟たちはパリに帰り、空港に行く前にデイビッドんちに寄ってくれた。それから夜にはクライアントのナントカさんを誘って、また映画を観に行く。「Shrek 2」。楽しいけど Shrek はやっぱりキモチワルイ。それよりクライアントのナントカさんがメチャクチャ面白い人だった。 デイビッドは最近わたしをたくさんの人に会わせてくれて、わたしのことを「ガールフレンド」って紹介してくれるようになった。なんだか突然で戸惑ったりしてる。ずっとそれが欲しかったくせにガールフレンドって言葉にまだ慣れなくて、デイビッドがそうやってわたしを紹介してくれるたびに不自然な笑顔になってしまう。だけど嬉しい。とても嬉しい。 そして、夜中にわたしの悪魔がまた飛び出した。3分の1くらい殺せたはずなのに、わたしの悪魔はしぶとくてタチが悪くて呆れる。 わたしは洋服に着替えて、車を停めたひとつ向こうの大通りまでの長いブロックを「今日は絶対このまま帰る」って頭の中で繰り返しながら必死で歩いた。松葉杖1本でかなり早く歩けるようになった。 車に乗り込んだら、1台のSUVが斜め後ろに止まってウィンカーを出した。 何かがパリンと砕けてペパーミント・キャンディを噛み砕いたみたいな気分になった。 わたしは窓を下ろして SUV の運転手にノーの合図を手で送った。助手席の女の子ががっかりした顔でわたしを見ながら、SUV は去ってった。ごめんね。きっと駐車スポット探し回ってたんだろうな。やっと見つけたと思っただろうにね。 わたしは車を降りて、ペパーミントの後味を残したまま、さっきよりもっと早足でデイビッドのアパートに戻る。そしてデイビッドのベッドにまた滑り込んだ。 「よかった。戻って来てくれて」。デイビッドは枕に押し付けた顔を上げずにそう言った。「神さまが戻りなさいって言ったの」「神さまが?」。わたしは返事をしないでそのまま眠った。 今日ナターシャは癌のドクターに診てもらいに行った。わたしは車でデイビッドとナターシャを病院まで送って、それからうちに帰った。車を降りるとき、デイビッドはとっても優しいキスをくれた。 手術をすると、ナターシャは顔が半分無くなってしまうらしい。そんな手術絶対イヤだ。キモセラピーもラディエーションも必要ドーズが大きくて、ヒドイ副作用が目に見えてる。そんな危険もイヤだ。ナターシャはこのまま幸せに、いつかそのときが来たら微笑みながら天国に行かせてあげよう。天国は幸せなところ。あの娘が教えてくれたことを、わたしはデイビッドに教えてあげた。 デイビッドは、音楽の中に神さまがいるって言った。 だから、わたしたちはバイオリンとピアノをずっと一緒に引き続けるんだ。きっと。 -
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