赤い嘘と白い嘘 - 2003年06月29日(日) 何度かけてもデイビッドは電話を取ってくれなかった。 メールであることをお願いして、それだけやってくれて送り返してくれたけど、メッセージはなかったしやっぱり電話は取ってくれなかった。怒ってるのかなって思った。土曜日にカダーんちにいたこと。それともメールでめんどうなお願いしちゃったこと。 「なんで電話取ってくれないの? なんでかけてくれないの? わたしのこと怒ってるの? ねえ、話したいよ」 そう書いてメールを送ったけど、やっぱり電話はかかって来なかった。 すごく不安になってカダーに電話した。 「大丈夫だよ。ちょっと待っててごらん。かけてくれるから」。 そう言ってくれてから、 「男はすぐ嫉妬するからさ。ほかの男の前でベリーダンス踊って見せただけで簡単に妬くんだよ」って言う。「もしあなたのガールフレンドがほかの男のアパートにいてベリーダンシングしたら、怒る?」って聞いたら「めちゃくちゃ頭に来てお尻蹴飛ばしてやるな」って言った。それから、「なんで嘘つかなかったんだよ」って言った。 「ねえ、話してて」。切りたくなくてそう言ったら、「何言ってんのさ。話してるじゃん」って笑う。「切らないでって意味だよ」「切らないよ」。 あの頃はこんなふうに優しくなかった気がする。携帯の電池が切れるまで、たくさんおしゃべりしてくれた。「デイビッドがもうあたしのこと嫌いになったら、あなたがあたしをガールフレンドにしてくれる?」ってふざけて聞いたら、「僕は今ゲイになりたい。女の子はもういいよ」ってカダーは笑った。カダーの携帯の電池が切れそうになって、カダーは「マジェッドに話し相手してもらいな」って言った。それからわたしはマジェッドに電話した。 マジェッドは今、カダーのアパートに住んでる。ルームメイトが自分の国に帰ったあと、マジェッドがそこに引っ越して来た。 ものすごく久しぶりだった。 「カダーがさ、きみにデートの相手が出来たって話してくれたよ。上手く行ってるんじゃん」。マジェッドがデイビッドのことをカダーより先に知ってたことは、カダーは知らない。カダーとおしゃべりしてたの聞いてたマジェッドは、「平気だよ。明日になれば電話くれるって」って言ってくれた。 マジェッドの病気のことを、カダーはとても心配してる。悲しんでる。怯えてる。 わたしは先週、MS の患者さんを診た。マジェッドより20歳年が上のその女の人は、もう笑えないでしゃべられないで食べられないで、経管栄養で生きてる。メディカルレコードには彼女が MS を診断された年が20年前になってた。今のマジェッドと同じ歳のときだ。それを見たとき、彼女を診たとき、頭がクラクラした。心臓がドキドキして胸が苦しかった。 土曜日にカダーは、マジェッドに今を思いっきり楽しんで欲しいって言ってた。 「女の子を片っ端からファックしまくれよって言ってやってるんだ」って。 「それが人生を楽しむ方法なの? あなたってほんっとそれしかない」ってわたしはわざと呆れた顔して見せて、カダーは大笑いしたけど、マジェッドに幸せな今を生きて欲しいってわたしもほんとにそう思う。 それから、マジェッドのためにももっとたくさんお祈りしようと思った。 「ねえ、カダーが前より電話をくれて、ときどき会ってくれるの知ってた?」。 そう聞いたらマジェッドは「知ってたよ」って笑った。「あたし、デイビッドを今とても好きなんだ。でもカダーのこともやっぱり大好き。もう大事な友だちでいられるんだよ」。ガールフレンドになれなくてもずっとカダーの大事な友だちでいたいっていつもマジェッドに言ってたから。「うん、友だちが一番だよ」ってマジェッドは言った。 「You will always be my good friend」 マジェッドがバースデーにくれたカードを、わたしはまだちゃんと机の上に飾ってる。 去年の夏のビーチのことをマジェッドはとてもなつかしんでて、カダーはわたしに今年もプランしろって言った。「だめだよ。デイビッドがまた妬くじゃん」って言ったら「バカ、黙ってろよ。きみが嘘が嫌いなのは知ってるけどさ、嘘にはね、赤い嘘と白い嘘があるんだよ」って言われた。 わたしは上手に嘘がつけない。っていうより、赤い嘘と白い嘘がわからない。 明日になったら、デイビッドは電話をくれますように。 どうか突然消えたりしないで。 -
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