お祈りが叶ったのかもしれない - 2003年05月22日(木) それでもいつのまにか眠ってて、母と一緒にムーン・リバーを聴いてる心地よい夢を見てたら電話が鳴った。「イタズラ電話が来た」ってそこだけはっきりした意識で受話器を取って耳に当てて、でもナンにも聞こえない。「Hello?」って言ってもナンにも聞こえない。あの人じゃないのかなと思ってから、受話器を逆さに持ってることに気づいた。慌てて正しく持ち直したら「もしもしー?」ってあの人が言った。「ごめんー。受話器逆さに持ってた」「アホ。反応がないからハァハァハァハァひとりで言ってる自分が寒くなったじゃん」。イタズラ電話ってそれ? つまんない。「明日の朝もイタズラ電話していい?」って。 時計を見たら、まだ6時だった。アラームを9時に合わせて、眠りに戻る。 9時のはずがお昼前に起き出して、シャワーを浴びようとしたら電話が鳴る。 カダーだった。「なんで今日あたしがお休みってわかったの? 知ってたっけ?」「知らないよ。なんかそう感じただけ」。嬉しいんだか嬉しくないんだかわかんなかった。「遊びに来る?」って言われて「セックスしたいだけなんだったらやだ」って言った。「そんなことないよ」ってカダーは言って、会いに行った。わかってて行った。 今日も雨が降ってて傘を持ってたのに、ドライブウェイから玄関まで傘をささずに走った。スエードのコートを着てたけど、気にならなかった。ドアをノックしたらすぐに出てきてくれた。カダーだった。当たり前だけど、カダーだった。優しい顔したカダーだった。吸い込まれるみたいに胸に抱きついた。少し濡れたコートごと抱き締めてくれた。もしも世の中に完全にぴったり合うハグが誰にもたったひとつしかないとしたら、これがそうなんだって思うほど、わたしは完ぺきにカダーにすっぽりおさまってた。心地よかった。なつかしい胸。なつかしい腕の中。「顔を見せて」ってカダーは言って、「長いこと会ってなかったね」って、まるで恋人みたいに額や頬に柔らかくて優しいキスをたくさんしてくれた。 長いこと会ってなかった。最後に会ったのは1月の終わり頃だったから、4ヶ月会ってなかった。でも、長いこと会ってなかったなんて思わなかった。そんなふうに考えてもいなかったし、待ちわびてもいなかった。今日会えることがちゃんと決まってたんだって思った。 カダーは話してくれた。マスター卒業してから始めてた生活費稼ぎのためだけの仕事を、雇い主と喧嘩したから昨日辞めたこと。笑わなかったけど、笑いそうだった。カダーらしい。カダーはあんなだけど、「世の中ってのはそういうもんだよ」って人が諦めるようなことを許せないで、気が済むまでやり合ったりするとこがある。辞めるって言った途端に雇い主は猫なで声で取りなそうとしたけど、「あなたと働く気はもうありませんから」って言い放って来たらしい。 そういうカダーが嬉しくて「よくやったじゃん」って言ったら、「そうかな。来週からまた生活に困るよ」ってちょっと深刻な顔してから笑ってた。 生活費稼ぎのための仕事じゃなくて、ちゃんとやりたい新しい仕事が待ってるってことだよ、カダー。ほんとにそう思ってる。 わたしはカダーに、カダーの国の音楽をかけて欲しいってお願いした。なぜかとても聴きたかった。前にもアパートで聴いたことあるし、その前には車の中でも何度か聴かせてくれてた。でもこんなにじっくり聴いたことなかった。素敵だった。ほんとに素敵だった。カダーは一緒に口ずさみながら、歌詞がわかんないわたしに意味を教えてくれた。ジャケットを見せてくれながら、そのバンドのことを話してくれて、そんなふうにカダーの国のことを聞くのがやっぱりとても好きだと思った。 「恋しい?」「そりゃあ恋しいよ」「ものすごく?」「ものすごくでもないけど」。 恋しいけど、帰れないことを恨んだり悔やんだりしない人。全てをちゃんと受け入れられる強い人。そんなカダーをやっぱり好きだと思った。 シャワーを使わせてもらった。 それから、「新しい仕事、見つかるから。見つかることになってるから」、そう言ったら、「僕もそう思ってるよ」ってカダーは言った。 「あたしがお祈りしてるから。だからあたしに感謝しなくちゃだめだよ」 「感謝してるよ」 「ほんと? 仕事が見つかったら、それはあたしのおかげだからね」 「そう思ってるよ。きみのおかげだよ。だからそうなるように、きみは僕のためにお祈り続けなきゃいけないんだよ」 笑った。 笑ったあと、「本当に感謝してるよ」って、カダーはあの最初の頃みたいな、優しい優しいキスをくれた。 タンゴ・クラブに行く予定だった。夕方から出掛けるってカダーに言ってあった。「僕も出掛けようかな。おなかが空いた」ってカダーが言うからちょっと迷ったけど、予定通りにタンゴ・クラブに行かなきゃ後悔しそうで、バイバイした。まだ連絡はつかないまんまだったけど、そのあとでデイビッドに会うかもしれなかった。 高速を走り出しながら、また少し混乱しそうになったけど、「混乱しない、混乱しない」って言い聞かせてた。それよりも、ドキドキのようなフワフワのような幸せで満たされていた。満たされてると思ってた。長いことかかって、お祈りがやっと叶ったのかもしれないと思ってた。 -
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