a little bit of everything - 2003年05月15日(木) もう5月が半分過ぎたっていうのに、冬みたいに寒い。 火曜日にカダーと電話で喧嘩した。喧嘩とも言えないかもしれないけど。 カダーの言ったことが気に障って、それを言葉にしたらカダーの気分を損ねちゃった。カダーはそのまま電話を切った。前ならかけ直したけど、まあいいやと思った。まあいいやと思いながら、少しだけイヤな気分だった。 家の電話を切った途端に携帯が鳴った。 デイビッドだった。 「今日やり残したことふたつを寝る前に済ませようと思って、今やってるとこ」って。 「やり残したことって何?」 「ひとつは食器洗い。これで明日の朝の大惨事がひとつ減る」。水がザーザー流れる音が聞こえてる。 「もうひとつは何?」 「もうひとつはきみに電話すること」。 やり残したことふたつ、いっぺんにやってる。笑った。 イヤな気分が溶けてった。 「晩ごはん何食べた?」とか、そんな他愛ないおしゃべりして、木曜日に会う約束して切った。「カダーなんか」って思った。 今日のタンゴは楽しかった。 あの太ったおじさんが来てて、殆どずっと一緒に踊ってくれた。おじさんが持って来てた CD で。言われたとおりに目をつぶって踊ると、上手く踊れる。あのおじさんと踊るとものすごく上手になったような気分になる。CD はおじさんが好きな曲を集めて自分で作ったヤツだった。すごく素敵だったから、「あたしにもコピー作って」ってお願いしたら、終わってから持って来てたその CD くれた。 それからデイビッドと会って、今日はデイビッドんちの近くの映画館に映画を観に行った。 映画まで時間があったから、デイビッドんちのすぐ裏の公園に行く。大きな大きな岩が山みたいになってるとこがあって、よじ登る。ハイヒールじゃ登れないから裸足になる。てっぺんまで行ったら、「ここはときどき僕の朝食のテーブルになるんだ」ってデイビッドが言った。冷たい岩を裸足の足の裏に感じながら、いいなあそういうのって思った。 「Daddy Day Care」。可愛くて笑って面白くて笑った。笑った笑った。 映画館のカーペットがふかふかで、履き慣れない靴でタンゴ踊りまくって痛くなってた足が、痛くなく歩けた。「あなたんちまでこのカーペットが続いてたらいいのに」って、本気で言ってた。 「だけどなんであのシアター買えたの?」 「リースしたんだよ」 「それだってその前は出来なかったじゃない。ファンドレージング上手く行かなくってさ」 「映画だからさ。あれ、映画だから。きみ、おもしろいねえ」 「あたし、寒い」 「熱いお茶が飲みたい?」 「Yes, yes, yes. Please, Daddy」。 痛い足引きずってアパートに着いたら、ナターシャにキスしてハグして靴を脱いだ。 太ったおじさんがくれた CD を「かけていい?」って聞いたら「タンゴは嫌だよ」って言われた。「違うんだって。これはちょっと違うタンゴなの。ねえ、かけていい?」。裸足の足はが痛くないから、くるくる踊る。熱いミントティーを入れてくれたデイビッドが「それタンゴじゃないじゃん」って笑う。「タンゴじゃないよ。これサルサ」。 ミントティーはおいしかった。わたしが持ってたキャドバリーのフルーツアンドナッツのチョコレートを一緒に食べた。おじさんがくれたタンゴの CD、いいって言ってくれた。「いいでしょ?」「思ったよりずっといい」「「それだけ?」「すごく気に入った」。 帰るとき、ナターシャがちょっと拗ねてた。妬いたのかもしれないし、帰って欲しくなかったのかもしれない。名前を呼んでもこっちを見ようとしないから、無理に引き寄せてキスしたら、ワンッて吼えてほっぺた噛まれちゃった。びっくりした。痛かった。「だから何度も警告しただろ? きみが思ってるほどいい子じゃないんだから」。飛んで来てそう怒るように言いながらわたしの顔を両手でぐいっと上げて、「傷がふたつ出来てる。こことここ」って痛いところをそっと指で撫でた。それからそこにキスしてくれた。 「ごめんよ」 「ううん。あたしがいけなかったの」 「キスしすぎた?」 「うん」 「深い傷じゃないから。血が滲んでるけど流れてないし。1、2週間かかるかもしれないけど」 「うん」。 ヒリヒリしたけど、それよりも、ちょっとだけショックだった。 どんなことも、思い入れしすぎちゃいけない。 少しずつ。みんな少しずつ。 楽しいことも幸せも好きな気持ちも愛情も。 少しずつ、少しずつ、たくさんを少しずつ。 このあいだの日曜日、ブルースがピアに連れてってくれたとき、水の向こうのシティの明かりを見ながらそう言ったのはわたしじゃん。 「A little bit of everything. それが幸せのコツだと思う」。 -
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