引越の片づけも出来ていないワタクシは置いてけぼりで、会社は通常業務の朝を迎えた。 慣れた仕事場とは違う為、体の動きも慣れのままでは行かない。仕事をこなすスピードも予想以上に掛かってしまった。 おまけに、空調が壊れている為に、ほぼ外気温と同じという室内での作業。時折、意識が遠くに逃げて行こうとする。ああ、涼やかな風吹く青い空の下、冷やしおでんでも食することが出来れば、なんと幸せだろう……。それとも、青空と強いコントラストが美しい、黄金色にはじけるビールか。いやいや、暑いときの熱い物もいい。コラーゲンたっぷりの鶏一羽を贅沢に使ったサムゲタンなんてのも捨てがたい。…………。………………。 気が付けば、退社時刻を過ぎていた。しかし、まだ帰れない……。
ようやく帰り支度を始めたのは、本日の勤務時間12時間を指した頃。ヘロヘロ歩きで帰宅。 自室に辿り着き、ホッと一息。PCの電源を入れ……視界の隅に動く物が。黒い、なんだ?
ゴキブリ!!
途端に神経を張りつめ、臨戦態勢を整える。右手はメールチェックを続けるマウスを操り、左手には棒状に丸めた新聞紙。二刀流!?
やっ!った〜〜、こいつ!うりゃ、うりゃうりゃ〜〜〜!てぇーい!待ちやがれー。こなくそ、何処行きやがった!?チェストー!とりゃぁー。
バシバシと床、壁を叩き回るワタクシ。攻撃をかわすゴキブリ。正に必死の立ち回り。 痛恨の一撃を与えたワタクシ。腹を向け、僅かに動く敵を見つめ、 「我が輩の殺生を許してくれとは言わん。ただ、成仏してくれ」そう、呟く。 これに答えるかのように褐色の強者は、 「これも、さだめ。恨み言など言うつもりもない」 数多の戦を生き抜いてきた強さは、美しい。 戦いの刃を交えた者として、敬意を表し、白い雪のような泡の中に包み込んで葬った。 厚い雲の隙間から、満月の柔らかな輝きに包み込まれて、高ぶっていたワタクシの闘争心が冷えていく。ああ、生き死にとは刹那のキラメキに過ぎないのだろうか?…………。………………。
疲れているのかな、こんな一人遊びをするとは。
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