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もう自力で生活するとか何でも色々どうでも良くて、あたしあたしは息をしてるので精一杯なのでした。
生きる気力というのをすっかり失ってしまっていて、今年の秋に古くてとっても大事な友人があたしを訪ねて来るのとか、色々な約束をしてるのもお誕生日にいただいたカードのお礼状を出すのも暑中お見舞いもどうでも良くなってしまって。 面倒だから自殺はしない。あたしは自殺が好きではない。人のことはとやかく言えないのだけど、だって気持ちは分かるから、疲れ切ってしまって先が見えない辛さは判るから。だけどあたしはあたし自身の後始末が自分で出来ないのが厭なのであった。死んだ後の責任はとれない。だから死ねない。それだけだ。 高校に馴染めずにいたあたしは、担任にしょっちゅう呼び出されていた。保健室登校が多すぎて目に余ったのだろう。 「ご飯が食べられないのは甘えだ。お前は甘えてるんだ。そうやって、自分のことをかわいそうがって、そういう可哀想なひとと傷の舐め合いを一生してればいい」 (あたしは強ダメージを受けると、食欲がなくなる。多少のダメージなら、過食に走るが、本当に駄目だと、食べ物を受け付けなくなる。今もそうだけど) 涙が止まらなかった。反抗する気力もなかった。そうなのかも知れないと思った。考える力なんて無かった。只哀しかった。駄目な自分が哀しかった。 学年が変わって少し楽になった春、今までの無理がたたって入院してしまった。たった一ヶ月ほどの入院だったけど、受験を控えたあたしには恐怖だった。そしてそれは親にも。親には当たり散らされた。入院なんかして、受験はどうするの。この一年が大事だっていうのに。あたしは2倍3倍もの不安を抱え込まなくてはならなかった。
退院してからも体調が優れなくて掃除や体育を免除して貰ってるあたしは、副担任に呼び出された。お前はさぼっている、掃除しろ、これからさせてやる、との命令だった。一ヶ月も学校を休んで入院してるあたしの事情を副担任が知らないわけはなかった。 その頃のあたしは本当に荒んでいて、毎日死にたかった。消してしまいたかった。あたし自身とあたしの周りの無機物を何もかも抹消したかった。コロサナイデと願いながらも、もう自分自身の存在に何も見いだせず、先が見えなかった。この不安定な生活に終わりがあるとはとても思えなかった。だけど、きっとあたしに色々云う親もあたしが死んだら悲しむのだろうし、後始末もしなければいけない。責任をとらなくて済む責任というのは大きい。そんな責任なんて取っても取れないから、あたしは生きざるを得なかった。 国語科研究室に呼ばれた。セクハラがなければいいなと思った。その頃駅でチカンにあったりしてたのだ。通りすがりに胸を思い切り掴まれたりなんかいろいろ。恋人以外の男の人への不信感はどんどん強まっていった。 只黙々と掃除しているあたしに、副担任は「あ、そこから先はいいから、他の先生のところだから」と言い放った。つまり自分の場所を掃除させるために生徒を呼びつけたのだ。あたしが密かに軽蔑していると信じられない言葉が耳にふってきた。
「るう、お前、自殺したらどうだ」 一瞬耳を疑った。教師の、人の言う言葉ではないと思った。野村という教師で、野球部の顧問をしていた。今でもS県の公立高校で教員をやっているのだと思う。
この人は何を考えてあたしにそんなことを云うのだろう。 自殺は何度も考えたけど、責任がとれないことをあたしはしたくない。死んだ後の責任をあたしはとれない。だからあたしは、死ねない。 「そうか。お前も色々考えてるんだ」 「・・・先生は、どうしてそんなことを訊くのですか?」 「いや、云ってみただけだから」
云ってみただけで済むような内容だろうか。
ちなみにあたしは先生と呼ばれる人からでも呼び捨てにされるのを厭がった。あたしの母は、あたしのことをきちんと「るうちゃん」と呼ぶ人なのだ。あたしは妹のことも呼び捨てにはしない。小さい頃、他のひとがするのを見て羨ましがり、あたしもお姉ちゃんだから妹を呼び捨てたい、とだだをこねたが、生きてきた年数が多いからと云って自分が上だとは限らないのだというのが母親の理論だった。母の家庭はそうなのだ。母方の祖母が母を、ちゃん付けで呼ぶのを聞いたことがある。母の教育だった。
だからあたしは生徒を呼び捨てにする教師を軽蔑していた。
こんな精神状態で、生きる気力も死ぬ気力もなく、生活していたら、躰は死に確実に向かっていってしまうだろう。以前何もかも見失っているときに事故にあったことがあるので何となく判っていた。きっといつ交通事故にあってもおかしくない。悩みながらあたしは遺書めいたメモを書き始めた。手帳やノートやシーツにまで。突然死んでしまうのは厭だった。きちんと残しておきたかったから。どうもありがとう。大好きでした。これからも大好きです。あたしは迷惑掛けたくて付き合ってたわけではないんだよ哲生。ようちゃん優しくて、ありがとう。心配してるって嘘でも嬉しかった。恭子ちゃん大好きです。愛してます。産んでしまったものなんてどうでもいいの。あたしの持ち物はみんなで分けてくださると嬉しいです。ケイタマルヤマとかかわいいのたくさんあるから、何もかも。誰か側にいて欲しいけど誰に側にいて欲しいのか判らない。誰にも迷惑掛けたくない。 許して。
生きたい。 自力で。
泣いてはネムって、出掛けなくちゃ行けないのに気を抜くとすぐ泣いてしまうから、泣き疲れて眠ってしまってを繰り返した。折角朝早く起きたのに、出掛けるのが遅くなってしまった。 お化粧がぼろぼろで、出掛けられなくて、何度も顔を洗っては泣いてしまって、を繰り返した。顔がぱんぱんに醜く腫れてしまった。少し前までの泣き顔は綺麗だった綺麗だったのに。 仕方なく薬をいつもの2倍飲んだ。そうしたら涙は終わってしまった。薬に生かされているあたし。
哲生に一言云いたくて電話した。出なかった。仕事中に哲生が出るわけない。でも祈るような気持ちでダイヤルした。責任感と正義感の強い哲生は、きっとあたしになにかあったら、正しい量であたしを思ってくれるだろう。以前あたしが躰を壊して入院したときも、けんちゃんを連れてお見舞いに来てくれた。哲生んち、遠いのに。
死にたい訳じゃない。生きていきたい。自力で。楽しく笑って、自分も自分の大切な人も大事に守りながら生きていきたい。おいしいねっておいしいご飯食べたい。またお気に入りのカフェに行きたい。あたしの好きな芸術家が内装を手掛けたあの場所。行きたいけど、行ける感がないのだ。あたしの世界は何処を見ても見渡しても真っ白だった。 とりあえず用を済ませに出掛けることにした。薬が効いてるうちに出掛けてしまいたかった。日常の雑用を済ましてる内に生きる気力が沸くかもしれないと祈った。出掛けて帰ってきて、またお薬をいつもの2倍飲んだ。兎に角眠ってしまおうと思った。
母の電話で起こされた。猫が衰弱しているらしい。何も食べないし、水も飲まないでぐったりしている。あああたしみたい。そういえばあたしってばあたしとおなじ名前を猫につけてしまったのだった。るう。そういうのは縁起が悪いらしいが。 るうちゃんごめん。 なんとなく謝った。 このおうちで生まれ育ったのに、何となく気の弱い神経質な猫で余りなつかなかった。自分を見てるみたいで切なかった。此処はあなたのおうちだから安心していていいんだよ。頑張って伝えようとしたけど駄目だった。人を見ると逃げてしまう。家族でも。すごくかわいい顔をしているのに、ストレスのせいか何か、ぷくぷく太ってしまって。三毛親から生まれたのに、パパが洋猫なのか、すごくやわらかい毛並みで、アメリカンショートヘアーそっくりで、こんなに綺麗な雑種はそうそう居ないだろうと思っている。
あなたが帰ってきたあとで死んじゃったなんていうのは厭だから、帰ってらっしゃい。出来るだけ早く。
アナタガ帰ッテキタアトデ死ンジャッテタナンテイウノハ厭ダカラ。
男友達に電話した。今度遊ぶのにやっぱり元気じゃないから、出掛けられないかも。どうしよう?けんちゃん予定入れやすいように、早く云っておこうと思って。(この電話2度目だ。甘えるから駄目だようと云うあたしに、おれは構わないよ大丈夫だよと答えるので、そのまま流されてしまった。) 「なになにどーしたの?」 うーんなんかすごいまいってて。いつ事故ってもおかしくないような精神状態で薬飲んだら楽になったんだけど。 だから会ったら迷惑掛けるかもしれないのそれが怖いの。
薬を飲んでるのは秘密にして置いたのに。
途中で哲生から電話が入った。 いつもの哲生ののんきな声だった。 「あんな時間に電話してもおれでないぞー 何、どうしたの。その蚊の鳴くような声はなんだよー。泣いてたんだろ、また。泣き虫は生きてけねぇぞー。お前は幾つだよ」 「・・・泣いてないじゃん哲生の前ではー」 「だってそんな声で電話出ればすぐ泣いてたんだなって判るよ」 (泣きすぎて声が枯れていた) 「哲生お誕生日おめでとうって云ってよ」 「やだよおれ。あまえるなっつーの。甘えてもかわいいなんて思わないからな。おれお前の事なんて」 「いいもん!哲生みたいなのに云われたくないもん!」 だって哲生あたしのこと迷惑だって亜紀ちゃんの前でゆってたっしょ。亜紀ちゃんがすごい迷惑そうだったってゆってて・・・」 「そんなん半分冗談じゃん。そんなならこうして電話したりしないのー!いい加減判れよ。」
うん。判ってる。 というよりも判った。 「あーもうお前のせいでNEWS23見そびれたじゃないか。 お前気晴らしに旅でもしてこい。金なら貸すから。勿論無利子で おれに百万くらい在ったら十万やるけど、そんな金ないから貸すだけな」
本気で云ってくれてるのだろう。その気持ちが嬉しかった。
その後またけんちゃんに電話し直して遊ぶ約束の時間を取り決める。 「元気になったかい?」 「うーんちょっと・・・」 しかし、 あたしのことを色っぽいなんて云うこの人は、 ・・・本気でいってるのだろうか慰めでなく?隙がある?このあたしに?ないよ多分。ガード固いし。 いやそんなんいいんだけどどうでも。「女の子らしー女の子」が好きなひとはあたしのこと気にするだろうし。この人はどういうタイプが好きなん?前の彼女えらく美人だったぞ。 そういえばしょっちゅう女の子扱いされている、気がする。 小さいせい?
こんなに弱ってる状態で、ある程度気を許してるけんちゃんに会ったりして、あたしは甘えすぎてどうにかしたりしないものか。
恭子ちゃんがるうちゃんには味方も一杯おるから、というのも信じられなくて、判らなくて、味方って誰?なんて思ったけど、 ていうよりも味方も敵もどうでも良かったんだけど
息をしてるのがもう苦しくて。 苦しかった。
るう
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