TENSEI塵語

2005年10月06日(木) もっと難解な「まほろば」

これこそ本当に困った歌である。
ぼんやり聞いているうちは、まだよかった。
断片的に古風な表現が聞こえてきて、これは万葉集、これは方丈記、、、
などと、古典を巧みに散りばめて歌っているのに感心していた。
ところが、ちょっと耳を傾けて、ここに登場する男女を思い描いてみると、
わけがわからなくなり、巧みな修辞も宙をさまよい始める。
虚しい修辞が羅列されているようにしか思われなくなってしまうのだ。
こんな歌詞である。

       「まほろば」
  春日山から飛火野(とぶひの)辺り ゆらゆらと影ばかり 泥む夕暮れ
  馬酔木(あせび)の森の馬酔木(まよいぎ)に たずねたずねた帰り道

   遠い明日しか見えない僕と 足元のぬかるみを気に病む君と
   結ぶ手と手の虚ろさに 黙り黙った 別れ道

    川の流れは よどむことなく うたかたの時 押し流してゆく
    昨日は昨日 明日は明日 再び戻る今日は無い

   例えば君は待つと 黒髪に霜のふるまで
   待てると言ったが それは まるで宛名の無い手紙

  寝ぐらを捜して鳴く鹿の 後を追う黒い鳥 鐘の声ひとつ
  馬酔(まよい)の枝に引き結ぶ 行方知れずの懸想文(けそうぶみ)

   二人を支える蜘蛛の糸 ゆらゆらと耐えかねて たわむ白糸
   君を捨てるか 僕が消えるか いっそ二人で落ちようか

    時の流れは まどうことなく うたかたの夢 押し流してゆく
    昨日は昨日 明日は明日 再び戻る今日は無い
 
   例えば此処で死ねると 叫んだ君の言葉は
   必ず嘘ではない けれど必ず本当でもない

    日は昇り 日は沈み振り向けば 何もかも移ろい去って
    青丹よし平城山(ならやま)の 空に 満月


1行目「なずむ」のは、日暮れだけでなく、2人の影でもあるだろう。
行き悩み、迷っているのだ。
2行目「あせびのもりのあせび」と読まずに「まよいぎ」と読んでいるのは、
「馬酔い」と「迷い」を掛けているのだ。
5・6行目は方丈記の冒頭文を連想させる。無情に無常なのだ。
7行目の「黒髪に霜の降るまで」は万葉集の歌を思い出させる。
「明け方まで外で待つわ」という意味にも取れるのだが、
もちろんここでは、白髪の婆さんになっても「いつまでも待つわ」だろう。
9行目。夕暮れになっても、帰るところが見つからない。。。

さて、この男女に目を向けてみる。

   例えば君は待つと 黒髪に霜のふる迄
   待てると言ったが それは まるで宛名の無い手紙

   例えば此処で死ねると 叫んだ君の言葉は
   必ず嘘ではない けれど 必ず本当でもない

「いつまでも待つわ」という彼女の言葉を、あてにならないと言い、
「今すぐ死ねるわ」という彼女の言葉を、本当でもあるし嘘でもあると言う。
何だ、君は?
彼女のことをまったく信じないで、つっぱねてるではないか。
君は「遠い明日しか見えない僕」なのか?
彼女の方が「永遠」ということを信じてるのではないか?
彼女は「足下のぬかるみ」ばかり「気に病む君」なのか?

ひとつの恋愛のドラマをここに読み取ろうとすると、わけがわからなくなる。
私はこの歌詞にかなり悩まされた。

けれど、ある時、発想を転換して、人の心の無常を歌ったもの、と考えたら、
案外すべての言葉が意味を持つような気がした。


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