「夏の香り」第6話のラストは、ヘウォンとチョンジェの約婚式である。 けれどもこれは行われなかった。 ヘウォンが会場に入り歩いている間に倒れてしまったからである。
初めての韓ドラである冬ソナを見たときに、約婚式というものに驚いた。 日本の結婚披露宴のように、婚約披露宴をやるようだ。 結婚式の後にも、ちゃんと結婚披露宴をやるようだ。 結婚するためには、そんな周りにひけらかすようなことをしなくても、 ただ婚姻届さえ出しに行けばいいと学生時代から考えている私には (もっともその主張は親にはねつけられて披露宴も体験させられたが) 2度も披露宴を行わねばならないことをたいへんご苦労さんに思う。 (もっとも、約婚式まで行うのは、金持ちに限られているという話もある) それほど、婚約という誓いに重きを置いているということだろうか?
しかし、今まで見たドラマに関する限り、 約婚式を行って結ばれた(らしい)のはパリ恋だけである。 「冬ソナ」のユジンはサンヒョクとの式に出なかったので大事件になった。 「秋の童話」では、ジュンソは帰国するなりユミと式を挙げた。 「愛の群像」では、ジェホがヒョンスと式を挙げたが、反吐が出そうな様子。 「階段」では、ソンジュが正式の婚約者でなく、 チョンソに指輪を贈ろうとしたが果たせないという驚きの展開だった。 そうして、結局どれも、約婚式の相手とは結婚できなかった。 唯一「パリ恋」だけは、ギジェがユナとの婚約式で明瞭に拒絶し、 後にテヨンとの式を正式に催して、たぶん最後には結ばれた、、、はずだ。 しかし、「パリ恋」は別にして、これだけ婚約が軽視されるのを見ると、 韓国では婚約破棄が多いので、このように披露して縛る必要があるのかな? と勘ぐりたくなってしまう。
ところで、ヘウォンが倒れたのは過度のストレスによるショック性のものだ と、医師が説明する。 ミヌは、自分がヘウォンを苦しめていたのだと自責する。 ヘウォンにとっては、ミヌへの思いのために、 チョンジェとの約婚式を避けたいという思いが強かったためだ。 作者の意図は、おそらく、ヘウォンの心臓=ウネの心が、 ミヌを求めてストライキを起こしたということだろう。
しかし、こんなことを結婚式を終えた披露宴で起こるのは悲劇性が強すぎる。 考えてみれば、約婚式というのは、緊迫した恋愛劇を演出するのに 実に好都合な慣習である。 約婚式には、おそらく結婚披露宴並みの決定的な事態という重みがあるのだろうが、実際結婚して夫婦になってしまったわけではない。 でも、結婚式と違うのは、決定的事態ではあっても執行猶予つきだということだ。
婚約式という慣習のない国では、 結婚式場から連れ出したり、逃げ出したりする物語が作られてきたが、 それほど多くのヴァリエーションが可能なわけではない。 結婚式の前に披露宴を開かせてどんでん返しを描いた漫画家もいる。 (あだち充の「みゆき」のことだ) それと比べれば、婚約式があれば、決定的事態からのどんでん返しが、 かなりの余裕をもって展開できる。 実際、パリ恋のギジュの祖父であるハン会長は、 ギジュとテヨンの婚約式を承諾もし、出席もするけれど、 破婚させるための作戦を胸にしまっている。
こういう好都合な面もあるので、婚約式が一般的でないにしても、 韓ドラでは結婚式や結婚披露宴よりも婚約式の方が目立ってしまうのだろう。 韓国からのドラマはまだまだこれからも多く入ってくるだろう。 日本では結婚披露宴は簡素化される傾向にあるようだが、 ひょっとしたら、ブライダル産業は婚約式に目をつけるかもしれない。
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