#2 濡鼠(完)  2006年03月08日(水)







ガチャリとドアノブを回した。驚いた。

「あ、子津くん」

牛尾がいう。子津は唖然としてドアを開けたまま部室にはいるのも忘れた。

「キャ、キャプテン。どうしてまだいるんすか?」
「え?子津くんのこと待ってたんだよ」

キョトンとして牛尾は答える。どうして当たり前のことを聴いているのだろうといいたげに。
子津はとりあえず部室に入りドアを閉める。牛尾が微笑みかけてきた。

「手当てしてあげるから、手、だして」

子津は息を止めた。そして笑った。牛尾が大嫌いな笑顔を浮かべてくるもんだから。

「いりません」

はっきりと口にした。
牛尾の表情が強ばる。子津は嬉しくなる。
そう。それでいい。笑顔なんか僕に見せなくていい。
その笑顔を見せないためなら僕はどんなことだってしてやる。

「余計なお世話です。キャプテン、もう帰ったら如何です?僕はキャプテンに待っててほしいなんて一言もいってませんよ」

さっき閉めたドアをもう一度開けて、右の手の平を天井に向け指先を部室の外へ向ける。さあ、どうぞお帰りください、としめすように。
牛尾は動かなかった。ただ子津を見ていた。
悲しんでいるとも怒っているとも違う顔で。目で。
―――困っている表情だった。

「…帰らないよ」
「どうしてですか?」
「どうしてって………」

牛尾は口ごもる。子津は心の中では眉間に皺を寄せているけれど相変わらず顔は笑顔のままだ。
さっさと帰ってくれないものか。こんなトラブル予想外なんだ。
無茶する後輩を心配する先輩なんて欲しくはない。本気で心配してくれてるそんな優しさなどこの手の血で汚くしてやりたいぐらいだ。

僕が、欲しいのはまるで違うものなんだから。

牛尾は黙ったきりだった。子津から視線をずらし困ったままの顔だ。
言いたいのに、言えない。そんな顔で。
子津は何故帰らないのか分からなかった。いや、むしろ何故怒りもしないのか。後輩からこんなにあれこれ言われていくら人のいい牛尾でも一言二言注意はしてもいいはず。



「(あれ?)」



一度ボタンのかけ間違いに気づいたら子津は正さなくては気がすまない。
何故?どうして?如何して?
帰らない牛尾。何もいわない牛尾。子津の顔を見られない牛尾。
あれ?
子津は呆然とした。時々自分の頭と勘の良さが憎らしくすら思えるぐらい。
出てきた答はあまりにも平凡で。けれども自分が最も信じられない答で。



「―――っはは」



笑ってしまう。まさかそんなこと。
ゆっくりと子津は手を下ろし、壁にもたれた。牛尾を見つめる。
攻略? 策略? 奪略?
ハッ、舐めんじゃねえよ。
奪い取らず、あなたから来て欲しいんだ。


「キャプテン」


牛尾が顔を上げる。目線が合う。
子津は呟いた。





―――言ってしまったら、平穏な日常は消え去ってしまう。
―――――そんなもん、望むところだ。




体の中に或る感情全て食べられてしまう。






僕が望んだ全てが、今、どうぞ、




「どうして?」








さあ、この濡れた手に落ちてください。










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BBM 『濡れ鼠』/ENDLICHERI☆ENDLICHERI








W-W-Dさんで牛子アンソロを作る動きがあるそうで!!
え、それじゃあまだcrescent閉鎖できないじゃん………この素晴らしい活動を応援せずにどうする!?
別に何が出来るわけではないですが、リンク貼るぐらいなら………(まだ告知サイト様はできてないようですが、できましたら)こんな死にかけたサイトではあるが………!!


わーわー牛子アンソロvvもう、響きだけでステキだよね、牛子アンソロ………(うっとり)その言葉だけで人を狂わす何かがあるよ!
届かないと思うけど、ひっそりこっそり。主催者のつばさ様ー!応援してます、頑張って下さい!!





「勉強勉強って、なんだよ。勉強が全てじゃないだろ」

「確かに勉強が全てじゃない。全てのうちの一つだ」






表紙