たりたの日記
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2007年08月25日(土) 石鎚山、クサリをよじ登り




 8月25日、四国の旅の4日目、石鎚山に登る。幼馴染のSもいっしょに登ってくれるというので、土小屋→二ノ鎖小屋→石鎚山(弥山)→天狗岳というコースを取ることにした。
 朝7時にSの運転で東温の家を出て、Sの友人のMさんを拾って土小屋へ。ちょうど剣山に登った時のように、車はずんずん深い山の中に入っていく。9時半土小屋に到着。かなり広い駐車場はすでに車で埋められている。天気は文句なしの快晴。

 レイジンソウ、クガイソウ、オオマルバテンニンソウ、様々な高山植物を眺めながら、また周囲の山々や目指す石鎚山を眺めながら、比較的ゆったりとした気持ちのよい山道を歩く。二ノ鎖小屋までは、ハイキングコースと言ってもよいほどの楽な道。小さな子ども連れの家族も目につく。土曜日とあって、ずいぶんたくさんの登山客が前に後ろに歩いている。
 白装束で、肩にほら貝をかついだ人もいる。石鎚山は、日本百名山の一つだが、山岳信仰(修験道)の山として知られ、日本七霊山のひとつとされる霊峰だという、ガイドブックの記事を思い出した。

 そして期待の鎖場。二の鎖小屋のすぐ上に太い鎖がある。これが、誰もいない日であれば、また霧でもかかっているのであれば、足がすくんでしまう事だろうが、すでに何人もの人が登っている。みんなで登れば怖くない!集団心理が働き、鎖場など経験した事のないわたし達だったが、この鎖はともかくチャレンジしようと登る事にした。
 しかし登り始めてみるとなかなかスリルがある。足をどこにかければ良いものか・・・わずかな岩のくぼみ、それが見つからない時は鎖の穴の中に靴の先を引っ掛けながら緊張して登っていく。何とか65mの二のクサリ場はクリア。やったね!と喜び合う。

 さて、頂上に到るには三の鎖、これを登るか、あるいは脇にある迂回路で登るか―。三の鎖は登らずに迂回路を行く人の方が多いようだが、目の前の鎖には白装束の人達がわしわしと登っている。わたしも登れそうな気がしてくる。
 SとMさんは迂回路を歩くというので、わたしだけ、三の鎖を登る事にした。人がいるのは心強いが、こういう鎖場を数珠繋ぎに登ってゆくのは何とも不安だ。先に登っている人達がすっかり上に上がってしまうまで待ってからやおら登り始める。
 三のクサリ場は、二のクサリ場よりも斜面が急だ。というより、ほとんど直角。足をかける場所はさらに見つけにくい。この高い岩の壁に、この鎖だけを頼りに一人しがみ付いている自分。何とも心細く、恐怖心が襲って来て、意識が遠ざかっていくような気にすらなる。
 「だめだめ、気をしっかり持って。集中すること、自分に信頼すること」と言い聞かせながら、「主の祈り」を唱えなつつわしわしと登る。
 「もしここで落ちる事があったとしてもそれは神が定めた事、神がわたしを生かすおつもりならわたしは落ちる事はない―」
 これくらいの鎖でおおげさだと笑われそうだが、自分の命を大きなところに預けて信頼する気持ちが起ってくると、恐怖は去り、最後の鎖を楽しむ事ができた。68mの三のクサリ場を登り切った後、そこに今までとは違うわたしが現れたような気になった。

 頂上に着くと二人はもう登り着いていた。迂回路は眺めも良く、良い登山道だったそうだ。帰りは鎖は使わずにこちらをいっしょに歩こう。
 
 さて、石鎚山山頂に無事たどり着いたが、この山、弥山(みせん)は標高1,974m。そして、そこから先に見えている切り立った天狗岳は標高1,982mで、正確には、こちらが西日本の最高峰という事になる。お握りの昼食もそこそこに、ザックをデポジットし、夫から借りてきた一眼レフのごっつカメラだけ持って、ふたたび挑戦モード。
 クサリ場も怖い。けれど、何も掴むもののない、岩の上を歩いて向こう側へ行くのも怖い。うっかり足を滑らせれば命はない・・・。
 Kさんはまん中まで来たところで、先に進むことを断念。わたしとS二人
で、何とか天狗岳へ。頂上は一人か二人しか立てないような狭い場所なので、Sと交代で頂上の岩に上がり、お互いに記念の写真を摂り合う。
足を滑らせる事はなかったものの、岩にカメラが当たり、レンズのキャップがはずれ、ころころと谷に転がっていってしまった。

 さて、下山。「帰りは迂回路を歩こうね。もう怖い思いをする事はないからのんびり歩こうね」と話ながら、三のクサリ場の迂回路を歩いた。ところがどういうわけか、二のクサリの迂回路を見逃し、二の鎖の入り口まで来てしまった。ここに降りるまでに、すでに小さな鎖も越している。迂回路に戻るとすれば、その細い鎖をまた登り、道を探さなければならない。わたし達の前を行く、男性数名のパーティーも、思わず、鎖場に出てしまったようで、二人は鎖で降り、後の三人は引き返したようだった。
 折りしも雨、ここでぐずぐずしていては雨の中を下山しなくてはならなくなる。二の鎖は三人とも登ることができたのだから降りるのは簡単に違いないと二人を促して、三度目の鎖場。正直、登りよりも大変だったが、途中から身体を岩から離し、足を岩に垂直に持って行けば良い事が分かった。身体の力を抜くとずいぶん楽に降りることができる。三人で、声を掛け合って、難関を何とかクリア。無事二の鎖小屋に到着。
 わたし達にすれば、今までに経験した事のないような大冒険を果たして、何とも清々しい気持ちで帰路に着いた。
 あの鎖の場面を思い返せば、ひやりとするが、同時に「あそこを登れたのだから」と勇気のようなものも湧いてくるのである。










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