たりたの日記
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2007年05月20日(日) |
吉岡しげ美、日本の女性詩人の詩を歌う |
いくら五月晴れとはいっても、 こんなに良いお天気五月の日曜日はなかなかあるもんじゃない。
数ヶ月前より、友人が準備してきたイベント、吉岡しけ美さんのミニコンサート&おしゃべりコンサートは素晴らしい日和に恵まれた。
心配していたお客の入りも、会場の貸しスタジオが一杯になり補助椅子を出すほどの盛況ぶり。 わたしもずいぶんいろんな人に声をかけたが、案内状を出した友人達が来てくれ、ずいぶん久し振りに会うなつかしい顔が嬉しかった。
吉岡さんの歌はパワフルだ。 人と人の間に垣根を作らないオープンな方だから、歌と歌の合間のおしゃべりは聴く者との間に距離を作らない。
わたしはこの日の司会の役目があって、数日前からいろいろ頭に描きながらシュミレーションしていたものの、結局原稿からほとんど目が離せなかった。教会学校のお話のようにはいかないものだ。 これが芝居や歌となるとまた違うわたしが出てきてくれるんだろうが。
金子みすず、茨木のり子、与謝野晶子の詞が歌われる。 今はもうこの地上にはいない詩人たち。 けれど、その言葉は、今切り取ったばかりのように新しく、血を吹いている。 アンコール曲は、わたしが最も好きな女性詩人、吉原幸子の「あのひと」、亡くした母親を詠った詩だった。
この日の記念に、与謝野晶子の「君死にたまふこと勿れ」を載せておこう。
君死にたまふこと勿れ
(旅順口包囲軍の中に在る弟を歎きて)
あゝをとうとよ君を泣く
君死にたまふことなかれ
末に生れし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刃(やいば)をにぎらせて
人を殺せとをしへしや
人を殺して死ねよとて
二十四までをそだてしや
堺(さかひ)の街のあきびとの
舊家(きうか)をほこるあるじにて
親の名を継ぐ君なれば
君死にたまふことなかれ
旅順の城はほろぶとも
ほろびずとても何事か
君知るべきやあきびとの
家のおきてに無かりけり
君死にたまふことなかれ
すめらみことは戦ひに
おほみづからは出でまさね
かたみに人の血を流し
獣(けもの)の道に死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
大みこゝろの深ければ
もとよりいかで思(おぼ)されむ
あゝをとうとよ戦ひに
君死にたまふことなかれ
すぎにし秋を父ぎみに
おくれたまへる母ぎみは
なげきの中にいたましく
わが子を召され家を守(も)り
安(やす)しと聞ける大御代も
母のしら髪(が)はまさりけり
暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻(にひづま)を
君わするるや思へるや
十月(とつき)も添はでわかれたる
少女(をとめ)ごころを思ひみよ
この世ひとりの君ならで
あゝまた誰をたのむべき
君死にたまふことなかれ
──「明星」明治三十七年九月号──
() Yosano Akiko 日本ペンクラブ 電子文藝館編輯室 This page was created on Jun 02, 2003
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