たりたの日記
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2006年02月02日(木) |
村山由佳 著 「すべての雲は銀の・・・」 を読み終える |
「翼」に続いて、村山由佳著、「すべての雲は銀の・・・」を読み終えました。
今回は、日記には書かなかったものの、ちょっと気落ちするというか、なんともむさむさとやるせない出来事があって、読書にも集中できない時があったので、読み始めから読み終わりまでにけっこう時間がかかりました。そして、その出来事から来るわたしの傷心(と言うにはおおげさかもしれないけれど)がこの物語に絡まって、文字通り、読むことで癒されていくという体験もしたのです。
んん・・・どういう感想を書こうかな。というのはここで紹介すると、きっと読もうとする方がいらっしゃると思うのね。そうするとネタバレみたいなことになってしまうと申し訳ない。とりわけこの小説は話の結末はどうなるのかなという期待や興味に冒頭で掴まれて、それにひっぱられて読み進めていくという具合だから、何も知らないでストーリーに導かれる方が良いに決まってますもの。
当り触りのないところでいえば、信州の山奥にある宿屋が舞台で、失恋の痛みを抱えてこの宿屋にアルバイトにやってくる大学3年生の大和祐介の一人称で語られる物語。前作の「翼」と同様、物語を構成する人物達が実に生き生きと描かれ、またその宿屋の建物の具合から家具調度、周囲の畑の様子など、まるで映像を見ているようにくっきりと浮かび上がって来ます。この絵が見えるというのは読んでいてほんとうに幸福な気持ちにさせられます。
祐介が心の痛手を宿の仕事やそこにいる人達とのかかわりを通して癒していく過程を読者もまた辿るというところも「翼」と共通するものがあります。 そして登場人物がそれぞれに心に痛みを抱えていることも・・・。 けれども読者はそうした個々の傷を見ることで暗いニヒリズムの沼に落とし入れられることはありません。うんと泣いた後のどこか晴れ晴れとふっきれた気分のようにすがすがしいものが心に起こってきました。 カタルシス・・・。
生きることは痛い、けれどもその痛みは癒されるという力強いメッセージを受け取ります。 どんなに不幸なことにもその裏には明るい兆しが潜んでいる―まさにタイトルになっている "Every cloud has a silver lining" がこの小説のテーマ。そういう強い「肯定」がこの物語を底から支え、センチメンタリズムに流されることを拒否しています。
この宿屋がこだわる、自然な環境での野菜作り、大地の恵みを受けた野菜や、元気な卵を産む鶏などの家畜の描写が印象的で、好きな部分ですが、作者は人間が生きる大地、命の源としての大地を力強く欠けのない大きな存在として土台に据え、読者ともども傷ついた人間達をそこに包み込もうとしているように思えました。 少なくともわたしはまるで信州の山奥で傷心を癒される体験を実際にしたような、そんな気持ちになったのでした。
もうひとつ、俯瞰ということ。「翼」を読んだ時にも感じましたが、この作者は鳥の眼を持っていると。この大地の広がり、そこに生きる小さなもの達のかけがえのない生。ひとりひとりを丁寧に描きつつも、時も場所も越えて広がるダイナミックな視点がそこにはあるように思いました。
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