たりたの日記
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2005年10月27日(木) |
合瀬智慧子詩集『おりがみ』」より「彼岸花」 |
彼岸花
合瀬智慧子
陽射しの届かない場所でさえ 花の色を変えない彼岸花は 暮れかかる十月の野に這って 夕焼けより赤くチロチロ燃えている
子どもの頃 母達の苦労話を耳にするたび 母達の流す血の涙で 汚れたエプロンが 今にも染まりはしないかと よく解からないままに心配していた
悲しみを置く場所すら与えられずに 古い時代を生きぬいてきた女達が 一家の嫁になるまで 一家の母になるまで土に流した 血の涙が 重く実った稲穂の横で 赤く 赤く咲いている
この前の文学ゼミの帰り道、kさんと武満徹のことや今年亡くなった歌人、塚本邦雄のことなど話ながら、その作家達を生前から知っていたにもかかわらず、その人達が死んでからその作品に深く出会ったことが残念だと言うと、Kさんは、不思議なものでその人が死ぬとその人の凄さが他の人に見えるようになるというようなことを言われた。 わたしは従姉の事を知り、その詩も好きだと思って読んでいたのに、これほど近くで響く感覚は今までなかったような気がする。
どういうのだろう。 その人の肉体としての存在がある時には、言葉もその肉体の距離の遠さと共に、あるいはお互いの関係の遠さと共にどこか遠いのだ。それなのに、その人の身体が地上にいなくなることで、その言葉がわたしの傍らに立つようになる。これまでも何度かこういう経験をした。その人の死の故にその人の魂と深く触れ合うということを。
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