たりたの日記
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この日、第5回詩のボクシング全国大会を観戦しました。
夏の最後の日、ゼミ仲間のKさんと川越まったりツアーをした際にお誘いを受けたのでした。 詩のボクシング、話には聞いていました。本屋でこの催しの仕掛け人、楠かつのり氏の著書も立ち読みしていました。TVで詩のボクシング高校生大会というのを見て、へぇ〜と驚くものがあったのですが、それを実際に観戦するチャンスが到来したというわけです。
観戦は午後2時から。きっと観戦するだけでも相当エネルギーを消費しそうな予感があったので、会場のイイノホールへ向かう前に、上野駅構内のアイリッシュパブでランチメニューをしっかり食べて腹ごしらえをしました。いえ、ここではまだビールは飲みません。
音楽会には音楽会の、ライブにはライブの、ダンスにはダンスのまた演劇には演劇の、客層というのか、そこに集まってくる人達がかもし出す空気があるものです。はたしてこの詩のボクシングのそれは今までに感じたそういう場の空気とはどれとも違っていました。ライブハウスなんかでのポエットリーディングなんかの雰囲気とは明らかに違います。あえて言えば、息子のバスケットの大会を見に行った時のあの空気や熱気に近いような・・。
すでにKさんは指定席に座って、探すわたしに手を振っていました。何とその席はほとんどかぶりつき。ステージの上にはボクシングのようなリンクが設えてあって、テレビ局のスタッフらしい人達がしきりに客席に向けてカメラを向けています。この試合はそのうちTVで放映されるらしいのですが、わたし達も映るかも知れません。鼻かんだりするとまずいかも・・・。 各県予選を勝ち抜いてきた代表選手16人の顔写真入りのトーナメント戦表を手に、スポーツ観戦などとは縁のないわたしでも、その熱気に取り込まれるような感覚がありました。
さて、ゴングが鳴り、いよいよ対戦。 自分の言葉で、自分の声で、自分の感性で勝負するわけです。 16人の朗読ボクサー達。10代から80代までの言葉と声と持ち味がそれぞれが全く個性的でまずそのことがおもしろい。 詩を文学的なところから味わうのとはもっと別の何か。その人そのものを味わうといった感覚。これはパフォーマンスそのものですね。パフォーマーがその3分間という短い時間の中で客席にいる人間の心をどれほど振幅させるか、その事が勝ち負けの鍵になっているのだろうと思います。
もちろん、それぞれの戦いを勝ち抜いてきた挑戦者たちですから、それぞれに良いものがあり心は動くのですが、その振幅の程度には差が生じます。わたしの場合、振幅度が並外れて大きかったのが長野県代表GOKU氏の詩の朗読でした。選ばれた言葉がくっきりした輪郭を持っていること。詩のリズムが変化に富み、全体として非常に心地良いこと。言葉を音声化する上での声の調子、スピード、間の取り方、それらが周到に計算され、練られ、また訓練されていて詩としても、パフォーマンスとしても完成度が高いのでした。 他の朗読者のようにテーマや内容が心情的にぐっとくるというのではないのですが、可笑しく、またクールな内容の詩であるにもかかわらずどれにも思わず涙が出ました。これはわたしの心が強く動いたせいです。
さてやがて決勝戦。 長野県代表GOKU氏と北海道代表の橋崎氏の対戦。二人とも30代前半の男性、しかし詩も持ち味も全く違う二人の対戦。 最終戦は2ラウンド。1回目はそれぞれが用意してきた詩の朗読。2回目はその場で出されるお題による3分間の即興詩の朗読です。それにしても即興詩の朗読とは何とスリリングな・・・。
GOKU氏は3回戦ともテーマは「虫」。最後の詩はトンボを題材にしていましたが、トンボと宇宙とがつながり、最後の朗読に相応しい広がりを持っていました。また即興詩の方は、お題が「ペット」だったのですが、やはり「虫」をテーマにして、苦戦しながらも、言葉が平易な言い回し、ありきたりの表現にならないよう、その瞬間、瞬間で言葉を選び探し出そうとしている様子が伺え、そのことがパフォーマンスとしても面白かったのです。これまでの3回の詩を微妙につなげ、そこに本音を混ぜ、最後のオチにいたるまでかなり頭を使った即興詩でした。
一方橋崎氏は3回とも、ダメキャラを全面に出した「それでもがんばっている」という心情に訴えるものでした。そして即興詩のお題は「ペットボトル」。彼はもう最初のところで、このテーマで即興詩を作るのは無理だとあきらめ、「こうなったらもう試合でなくってもいい!」と、言葉での対戦をある意味降りてしまい居直りを顕にしました。そしてそのリングの上で身振り手振り、彼の持っているすべてを用いて3分間のパフォーマンスを果たしたのです。使われる言葉は「ペットボトル」のみ。観客にはそれはウケているようでした。人の良さや自分をそのまんま観客の前にさらけ出しているところが人を惹きつけたのでしょうが、わたしはそこのところがクールなのでしょうね、あまり心は動かない。逃げるな、言葉で勝負しろ!という気持ちになってちょっと白けたりしているわけです。
果たして勝敗は! 7人のジャッジの内、5人が橋崎氏を挙げ、チャンピオンは橋崎氏に決定。 ちょっと残念。 でもこの「詩のボクシング」がそういう性質の大会ということなのでしょう。最後はその人間の持っている生命力のようなものが勝敗の鍵になるという。
帰りはお風呂に行くかもしれないと、Kさんもわたしもしっかりバッグにタオルを忍ばせていたものの、観戦にはやはり相当エネルギーを消費し、都内のお風呂屋を探す元気がもうひとつ足りませんでした。わたしの場合。またこの観戦のことをKさんとゆっくり話したいという気持ちが強かったので、そのまま池袋へ。たりたさんが好きそうなところよとKさんが案内してくれたところはアイリッシュパブ。はい、文句なく好きな雰囲気です。ちょっと薄暗い店内のアンティークな感覚のテーブルや椅子。黒ビールにフッシュ&チップス。アイルランドの家庭料理やサラダもうれしく、気軽なおしゃべりの中で、さっきまでの手に汗握る緊張がほぐれてゆきました。 あぁ、楽しかった!
さて、今度は観る側ではなく、観られる側。 今日受けたのパフォーマー達のエネルギーをしっかりチャージさせよう。 ここで得たことがステージにつながる気がします。 「伊集の花」の中でのダンス、「インディアンの教え」の語りの部分。自分を他の人の前で開くということ、相手の心を開くということ、そこに起こる何か。
さて、練習モードへ変換! 今日(書いている今は10日の正午過ぎ)はこれから夜まで合同練習です。
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