たりたの日記
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2004年09月03日(金) |
800字小説 「おばあちゃんの卒業の日」 |
2学期が始まったばかりの9月の始め、ぼくは教室の中にいて、うとうとうとしながら国語の授業を受けていた。と、いきなり事務の先生が教室に入ってきて、ぼくの家から電話だと伝えた。 ぼくの心臓は一度ガタンと大きな音を立て、それからドクドクと連打し始めた。ぼくはその電話が何の知らせか、聞かないでも分かった。おばあちゃんが死んだんだ。
ぼくと中一の妹の瑞希はタクシーを待って中学校の校門の前に立っていた。突然、瑞希が思い出したようにぼくに言った。 「おにいちゃん、覚えてる?おばあちゃんが言った事」 「なんだよ、それ」 「前におばあちゃんの病室を訪ねた時、おばあちゃんが言ったじゃない。おばあちゃんが死ぬ日は、おばあちゃんの卒業の日なんだから、二人とも悲しんだりしないで、お祝いしておくれって」 「そうだ。あの時ぼくは頼まれたんだった。お葬式の時に、卒業式に在校生が読むように送辞を読んでくれって」 「わたしはおばあちゃんに代わっておばあちゃんが書いた答辞を読んでくれって頼まれたわ。おばあちゃん、答辞書いたのかなあ」
おばあちゃんが横たわる病室にはやわらかな光りが満ちていた。お母さんがおばあちゃんの文箱の中にあった家族のそれぞれに宛てた手紙と「答辞」と書かれた手紙を見せた。 「答辞っていったい何なのかしら、下に瑞希様って書いてあるの」 ぼくと瑞希はおばあちゃんから頼まれたことを話した。 「そうか、なるほどな。おふくろらしいよ、卒業だなんて。徹、しっかり書けよ。」お父さんはそう言いながら、ぼくの肩をぎゅっと掴んだ。
その夜ぼくは、おばあちゃんに送る言葉をノートに綴り始めた。 「おばあちゃんご卒業おめでとうございます。今までいろいろと大変だったけど、おばあちゃんが言っていたように、ようやく天国へ入学したんですね...」 書きながら泣けてきたけれど、それは悲しい涙じゃなかった。なんだか、お腹の底から力のようなものが沸き上がっていた。
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久し振りにゴザンスの800字小説を書きました。設定は 「卒業の日、教室で、わたし(ぼく)が」です。この3つキーワードでお話を創るわけですが、 これを書く直前まで、卒業なんて、少しもストーリーが浮かんでこないと思ってました。ところがお皿を洗っていた時、物語のある場面がふっと浮かび上がってきました。病床にいるおばあちゃんと孫達のシーン。もう物語はそこにあるようです。そこで、その物語を聞こうとばかりにわたしはパソコンを開きました。指が物語りを紡ぎはじめます。 物語が出来上がる度に、この不意に起こってくる感じが不思議で、またわくわくもします。
なんだか、最近、自分がおばあちゃんになった時の事を思い浮かべます。実際わたしと同世代の友人が孫を抱える身になっていて、わたしもその日が来るのはそれほど遠くもないと思えるからでしょうか。 もう子ども達に必要なくなった絵本や児童書を処分しようとして、孫にいいかもしれない、なんて思い捨てられない。自分でも笑ってしまいます。
そのくせ、まだ20代、30代の現役気分で、今日もジーンズのミニスカートとタンクトップという格好ですからね。この矛盾・・・ おばあちゃんになっても、ジーンズ履いてるでしょうね。なんとかウエスト61センチをキープしたいもんです。
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