たりたの日記
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2004年08月27日(金) おやゆび日記 ♯9


朝9時20分。別府湾を臨むホテルの窓辺。
16階の窓の4分の3は薄い水色の空で、その下に同じような色の海。
空が海に溶け出しているかのように、その境界線はぼんやりしている。
旅の終わりの一日、一人ホテルで過ごす静かな時間はいつも好きだ。
とりわけ朝。
この時間はふるさとと今生きている場所の中間にあって、
そのどこにも属さない空間の中で、ゆっくりシフトしてゆく。

昨日はなつかしい人達にたくさん会った。
朝早く、生まれてから成人するまで 住んでいた家がある場所へ行き、
裏のMおばちゃん、おじちゃんの家 を訪ねる。
というのも、まだ7時という時間に、Mおばちゃんが、栗おこわを炊いて持って来てくれたのだ。それならおじちゃんにも会いたいと、おばちゃんの車に乗せてもらった。
そう、早くから車を運転し始めたおばちゃんは、病気の時、わたしや弟をよく病院に連れて行ってくれたのだった。

「よく来た、よく来た。さあ、さあ、上がりなさい」
こんなに朝早い時間だというのに、子供の時のように、誘われるままに上がりこみいっしょに朝御飯をいただく。
10年ぶり にお会いした、おじさんは80歳でわたしはもう50歳に近いというのに「よしこちゃんは子供の時のままじゃ」と言われながら、わたしはいつの間にかほんとに子供に戻っていた。
ファンタジーがそこに生まれる。


その後に訪ねた家は学生の頃家庭教師をしていた家。
もう25年も訪ねていなくて、ふるさとに帰る度に気にかかっていた。
あの頃は、勉強を教えに行くだけでなく、おばさんの手料理を食べさせてもらったり、おばさんの若い頃の話を聞かせてもらったり、その家で何時間も過ごしていたのだった。
娘達は遠くへ嫁ぎ、去年御主人をなくされたおばさんが一人ですんでいるはずだと母から聞いていたが、訪ねてみると、なんとKちゃんが戻ってきていて、そこにはKちゃんの娘もいた。娘はあの時のKちゃんと同じ10歳。
このテーブルで算数や国語の勉強をしていたKちゃんは、今は母親なのに、やっぱりあの頃のままのKちゃんで、わたしは19の頃のわたしなのだった。そして、彼女とやりとりしたいろんな場面がふわっと立ち上ってきた。
変らないものがそこにある事にやっぱり驚く。それだけに、過ぎてしまった時間の大きさに圧倒される。
本を差し上げた。これまでのご無沙汰を少しでも埋める事になればと。ここから、また新しく出会い直しが始まればよいと。


母に別れを告げ、夕方帰り支度を整え、分市内に出る。
夕方、新卒の時の教え子達数名と会う事に前の晩話が決まったのだ。
そのメンバーのひとりS君が店長をしている洋風居酒屋へ集まる事になっていた。

S君の奥さんのNちゃんも当時の3年2組のクラスメート。だから二人の3歳になる娘のKちゃんはなんだか孫のような気がしている。Nちゃんは顔中にこにこ笑ってわたしの方を見ている子だったけど、その笑顔はまるでそのまま、娘のKちゃんに注がれている。

離婚の事でずいぶん悩み、手紙をやりとりしてきたTさんは、シングルマザーになって、すっかり生き生きとしていた。

小学校4年生の時以来初めて会ったUさんは、腕白坊主のたくましいお母さんになっていた。くりくりした目でいつも愉快そうに笑っていた3年生の時の表情はそのままに残っていて、小さい頃の彼女がそこに見え隠れしていた。

子どもの時、少しも話しをしないので、どうして話させようかと苦労していたSちゃんは4人の子供達のおかあさん。やさしそうな御主人にもお会いした。「先生が担任だった3年生の時だけが、楽しかったんです」とSちゃんは言ってくれたけれど、あの時、そんな事は知らないわたしは一言もしゃべらないSちゃんの事をずいぶん心配していたのだった。

S君の店の創作料理は、どれも抜群においしくて、しゃれている。流れているジャズや店の雰囲気も素敵だ。様々なところに離れ離れになっている昔の仲間達が、この店を本拠地にして、会ったり集まったりという風なっていくのかもしれない。次回の帰省の時にも、この店へ行こう。


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携帯で書いてメールに送っていた日記に追加して書きましたから、おやゆび日記とはいえませんが・・・

夕べ遅く、九州から戻ってきました。
いつものテーブルで、パソコンを開くと、山のような家事が押し寄せているというのに、座り込んで書いてしまいました。
こういう旅の日記は、日常に紛れるとたちまちのうちにその空気までどこかへ行ってしまうので、まだすっかり日常に戻る前にと。

昨日は学生時代の友人のUさんと例の別府の海の見える温泉でプールに入ったり、お湯に浸かったりして話ながら、時間ぎりぎりまでそこで過ごし、夕方の飛行機に乗って帰ってきたことでした。思いがけず、たくさんの人達と会え、良い帰省でした。

(8月28日の朝に)


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