たりたの日記
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2004年05月21日(金) アイスバーグの咲く庭で

今日はとても良い天気で、そのせいか、何か「やる気」に満ちていた。
わたしの「やる気」は、ここ5ヶ月ばかりは書くことにしか向かわなかったが、
今、モードが変っている。
午前中は掃除や洗濯や衣類の整理などに「やる気」を発揮した。

でもせっかくのお天気、家の中だけで過ごすのはもったいない。
けれども、家の外には一歩も出たくない気分。
よおし、午後は庭で過ごそう。
白バラのアイスバーグが、いくつも花を付けていて、それはうっとりするほどなのだ。このバラを眺めながらお昼ご飯を食べることにした。

エンゼルヘアという極細のスパゲッティーを茹でて、明太パスタソースで和えたものをダンスクの白と青の和風の模様の皿に盛る。
朝作っておいた豆のサラダは青いガラスのサラダボールに。赤いうずら豆と白いんげん豆と刻んだピーマンを、オリーブオイルと酢と塩で合えたこのサラダは色どりがきれいでヘルシーなのが気に入っている。
それに大きなマグカップに入れたたっぷりのコーヒー。

猫の額ほどの庭だけれど、その真ん中にうんと育ったハナミズキがあり、その真下に白いスティールのテーブルと椅子を置いてある。
ハナミズキは葉をいっぱい茂らせているので、強い太陽の光りをちょうどいい具合に遮ってくれる。
テーブルの上で揺れる葉っぱの影が楽しい。

テーブルにパスタとサラダを並べ、ゆっくりと食べ始めた。
わたしの頬のところに、チェリーセージの花が揺れている。
足元にはイングリッシュアイビー。スタンド付のプランターに植えたアイビーが伸びて垂れ下がり、地面を這っている。
座ったところから、大きな鉢に植えたアイスバーグの花が見える。
細い枝にいくつも花を付けるので、花の重みで、どの花も俯いている。
ミルク色のその花の色は、なんとも暖かく、優しげだ。
アイスバーグというのは氷山のこと。名前の通り耐寒性が強く、まだ寒い3月にも2つ花を咲かせたほど。

もともとドイツのバラらしくドイツでは、シュネービッチェン(白雪姫)と呼ばれているらしい。そういえば、グリム童話の白雪姫の持つキャラクターとこの花は良く似ている。可憐で純粋、そして小人達とすぐに仲良しになってしまうような、気さくさと明るさ。

わたしは実はバラは苦手だった。バラが代表する深紅のハイブリッド系の大輪のバラはゴージャスすぎて世界が違うっていう感じがしたし、またあの強く鋭い刺も、バラが苦手な理由だった。

ところが3年前のある日、生協のカタログで、このアイスバーグを見た。そのバラはわたしがイメージしていたバラとは違って、やさしげで愛らしかった。いったいバラなど育てられる気もしなかったのに、その苗を注文した。
2週間後に届いたバラの苗は、まるで枯れた木の枝のようで、その苗とあの写真のバラはとても結びつくものではなかった。ともかく、そのバラの苗を、雪でも降りそうな真冬に植えたのだった。

春になって、古い枝についた芽がぐんぐんとものすごい勢いで伸び、じきに枝はみずみずしい葉でおおわれた。5月、写真の通りの可憐な白バラがたくさん咲いたのだった。
わたしが生まれて初めて咲かせたバラだった。


ゆっくりとお昼を食べた後は、生協の注文票を記入した。
ここ数ヶ月間、この注文書きをする気がしなくて、ずっと注文しないでカタログだけ配達してもらっていたのだった。
注文を書き終わったところに生協の配達のおにいさんがやってきた。

「珍しいですね。息子さん、帰ってきたんですか。」

「えっ、そういうわけじゃないんですけど…」

いつか、注文書を出さないのは大飯喰らいの息子が家を離れたからだと言ったからだ。

その後もそのまま庭にいて、Clarissa Pinkola の Women Who Run With the Wolves を読む。翻訳すると「神話や昔話の中に見る野生の女の元型」という副題がついている本。今度書こうとしているもののヒントになるものがこの本にあるような気がしたのだ。
ちょうど開いたところが、Skelton Woman (骸骨女) という章だった。
生と死の統合がこの昔話のテーマになっている。そしてわたしがテーマとして考えてきたこともそういうことだった。メメント・モリ。生の内に死を覚えるという生き方。

前にも書いたが、庭には生と死が同時に存在する。
今 開いたばかりの白いバラの花を愛で、それを摘み、花瓶に挿す。
その側では、咲き終えた花がはらはらと地面に花弁を落としている。
明日は、もうすっかり終わってしまったパンジーやノースポールの株を抜かなければならない。
そして、翌日には夏から秋にかけて咲く花の苗を植えることだろう。

今いちばん美しく咲いているアイスバーグももうじき終わってしまう。
せめて、この花が咲いている間はできるだけ庭で過ごそうと思う。

あ、いけない、こんな時間。明日の朝はうんと早く起きてガーデニングをする予定なのに。

では、みなさん、おやすみなさい。



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