たりたの日記
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2004年02月23日(月) 夢みたものは

心太日記への投稿 その1  「夢みたものは」


 わたしはこの心太日記でわたしの中にある「子ども」を軸に書こうとしているので、今回の「夢」についても、そこのところから覗いてみたいと思います。さて、記憶を辿り辿って、わたしが抱いた夢はどんな形をしていたのでしょう。

 保育園の休み時間、わたしは大型積み木を2段重ねた仮設ステージの上で、小さな積み木をマイクにして「♪かわいい、ベイビー、ハイ、ハイ」なんていうその頃の流行歌を、同じ5歳児の観客の前で歌っていました。5歳のわたしの夢は「ステージで歌う人」になることでした。これが一番古い、夢みたものの形でした。

 小学校6年間、わたしが夢みていたのは漫画家でした。学校でも家でも時間があればイラストのようなものを描き続けていました。少なくともクラスでは一番「うまい」ということになっていたので、他のクラスの一番「うまい」子と他流試合みたいなことをしたり、クラスメートがノートを引き破って「かいて〜」と持ってくる紙に、注文どおりのカワイイ女の子のスタイル画を描いてあげたりしていました。中には新しい自由帳一冊にまるごと物語を描いてと注文してくる子もいて、わたしはけっこう得意になって、そんな注文を即引き受けては、創作活動に熱中するのでした。わたしとしては絵が描けるだけで満足で、そのノートをその子が得意げに他の子に見せて賞賛を得たりすれば、それで十分幸せな気持ちになったものです。けれども、小6のあたりから、どうしたって自分に漫画家になる才能はないと自覚しました。わたしは単に漫画家の絵を真似しているだけで、自分では絵も、ストーリーも生み出すことができないことに気がついたのですね。

 中学校3年間、わたしが密かに夢みていたことは作家でした。手当たり次第に本を読んでいたありがちな文学少女だったわたしは、自分の書いたものが活字になるということをぼんやりと夢みて、そんな仕事ができるならどんなにいいだろうと考えていました。それだったから、作文関係のコンクールともなれば、はりきって賞を狙って書いたものでした。あの時期、わたしはその夢に乗っかることで、本を通して知らない土地や世界を知り、文学を通して様々な境遇や年齢の人と出会い、書くという行為を通して自分の内面を覗くというずいぶん貴重な体験をしたように思います。

 高校時代は夢はぐっと現実的なものなり、なんとか自分の住んでいる町を出て、都会で暮らすということことが夢にとって変わりました。そのためには都会の大学へ行くしかないと、その夢の実現に向けて無意味だと思われる受験勉強をたらたらやっていました。自分でも効率悪いなあと思っていましたから、時間とエネルギーを費やした割りには結果は惨憺たるもので、わたしは地元の駅弁大学の教育学部、一番やりたくない仕事と思っていた教師になる道へと進むことになりました。明らかな挫折です。ところが、教育実習で教室の子ども達と接触して、意識がすっかり変わったのです。どうやらわたしはその時、「子ども」という存在にフォール・イン・ラブしたようなのでした。育ってゆく子ども、そこにかかわるあらゆることが興味の対象になり、また夢になりました。

 そうして、さまざまな夢の果てに、子どもの頃には夢のリストの中に入れたこともない「母親」という仕事をわたしは選択しました。そして実際、それはエキサイティングな夢でした。生まれたばかりの人間の命を育んでゆく、その人間の成長を見つめるというのは、それ自体が夢を追うことのような気がします。存在する人間の数だけまた母親も父親もいるわけで、親であるということは、けっして特別なことではないはずなのですが、そこにはそれまで夢見たどんなこととも引き換えにできないほどの「夢」が横たわっていたのです。日々の驚きと発見。足はしっかりと地面を踏み、苦労や不安も含めて、生きるということの味わいを噛み締めていました。

 さて、では子ども達が育ってしまった今、わたしの夢ってなんでしょう。年齢から考えると折り返し地点を過ぎてしまいました。これまでかき集めてきたもの、走りながら、後で取りに来るだろうと置き去りにしてきたもの、その時々に夢みてきたことも含めて、そういうものを材料に何かを織り上げる時期を迎えているという気がしています。わたしが過ごしてきたわたしの人生なのですから、わたししか紡げない糸があるだろうし、わたししか織れない布のがあるはずです。まずは糸を紡ぎ、そうして織ってゆく、それがわたしの今のところの夢でしょうか。素材になるものは、言葉、音、色、動き、そして時間…。それがどのような表現になるのか、まだ形は見えませんけれど、この時期をゆっくりと味わいつつ、わたしの「夢みたもの」を形にし続けていきたいと思っています。










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