たりたの日記
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あさっての あなたの通夜に 誰もが同じに見えるおきまりの喪服は着たくない 今朝 まどろみの中でそう思った
あなたがステージで歌った時に着た 目の醒めるようなブルーのイッセイ.ミヤケ あんな服をわたしが着て行ったら あなたはVサインを送ってよこすだろうね でも そんな根性 ないな
あなたに初めて会った6年前の夏 4日間の古楽のキャンプへと向かうバスの中 後ろの座席に座っていた私の方にくるりと顔を向けて あなたは話しかけてきた ジーンズとデニムのジャケット おまけにデニムのハンチングかぶってなかった? おおよそ年相応とは言いがたい格好のあなたに わたしはほっとした
その夜、露天風呂で星を眺めながら あなたのストーリーをひととおり聞いた 夫と離婚した後、一人で子ども3人を育てていること 自分のやりたいことを思う存分やれる今の暮らしに満足していること 若い頃 プロテスタントの洗礼を受け 今はカトリック教会で グレゴリアンチャントを歌っていること 魂のことやソウルメイトなんてことも話したっけ ちょうど同じ本を読んでいて これは運命的な出会いかも と笑いあった
あれから2回 あなたのアパートを訪ね あれから2回 あなたの小さなコンサートにでかけた いっしょに音楽会に行ったのも2回なら 待ち合わせして食事をしたのも2回じゃあなかったかしら そして2回だけ、わたしも発表会のステージで歌った
あの礼拝堂のような小さなホールで リュートとチェンバロの伴奏に合わせての独唱 あなたは切ない愛の歌をおもいっきり哀しげに歌い わたしは今生の別れのような気分で歌ったのだった 一週間後にわたしは手術を控えていて やっかいな病の疑いもあったから
リコーダーを吹くこと 讃美歌をデュエットすること 英語の詩を朗読すること いつかいっしょにやろうと話していて 一度もやらないままだったそれらのこと 時間はたっぷりあるのだと疑わなかった
3日前 あなたの訃報が届いた 突然の死 心はうつろに あなたとの時間を遡る 最後に会ったのは去年の秋 コンサートの帰りの電車の中で あなたはいつもと同じように夢を語った そう あなたはいつも両腕いっぱいに夢を抱えていた その抱えた夢のために足元が見えないんじゃないかと わたしは少し心配していたかもしれない
いったいどういうわけで今なの? 夢を追いかけながら あちらの世界まで突き抜けて行ったとでも言うの? すべてのことに時があるとすれば 今があなたに用意されていた旅立ちの時? あなたはひょいと垣根を飛び越えるようにして 逝ってしまった
あなたの通夜に着るために わたしは今日 黒いブーツカットのパンツとストレッチのシャツを買った あなたのように 最後までオバサンをやらない覚悟 あなたの旅立ちを祝うために行くよ そして大きな声で讃美歌を歌う 背筋をぴんと伸ばしてね
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