たりたの日記
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おおよそ人といわず、動物といわず、すべての生き物の中で愛するという心の動きほど美しいものはないことだろう。 しかしその愛は同じ愛という言葉を持ちながらその質たるや実にピンキリなのだ。 愛と信じて愛ではなく、愛などと思わなかったことが愛であったりもするのだから。
6匹のうさぎたちが 出会った月夜の晩、そこには実に高貴な愛が浮遊していた。 病気がちな乙女うさぎに絶えず心を配り、彼女がころびそうにでもなればがっしりした我が身をそのか細い乙女うさぎの前に投げださんばかりの勢いの若者うさぎ。実にそのうさぎは一番 年若いのであるが、その使命感からか、何にも動じない落ち着きに関しては他のうさぎたちを遥かに凌いでいた。 乙女うさぎはその配慮に富んだ視線の中で嬉々として飛び跳ね、歌い、高く足を上げてポーズを取ったりもするのだった。
夜も更け、年若い二人のうさぎが仲良く帰っていった後、4匹の中年うさぎたちはしみじみと酒を飲む。クイーンの風格を持つうさぎが席を立った時、キングの様子をしたうさぎは 残る2匹のうさぎたちに顔を近づけるとその逞しいごつごつとした顔をまるで少年のように柔らかくして、いきなり、まっすぐな瞳でこう言ったのだ。
「クイーンうさぎって、かわいいでしょう。憎めないでしょう。誰にとっても聖母マリアのようなうさぎなのです。すごいうさぎとぼくはいっしょにいるんだ。ぼくにはもうこのうさぎしかいない...」
のこる2匹のうさぎはお互いに息を飲んで顔を見合わせた。これほどの愛の告白を今だかつて映画や小説の中以外では聞いたことがなかったから。聞いてしまってよかったのかしらと一瞬動きが止まってしまうほどだった。しかしその驚きは類稀な純粋な愛の言葉に触れたことへの感動へと次第に変っていった。
ほどなく、キングうさぎからこよなく愛されているクイーンうさぎが戻ってきた。 のこる2匹のうさぎは新しい目でクイーンうさぎを眺めながら口々にキングうさぎの言葉をクイーンに伝えるのだが、クイーンうさぎの目に映るのはいつものキングうさぎ。さっきの少年の瞳はもう隠れてしまっている。
しかし言葉はそこになくてもクイーンうさぎにはこのキングうさぎの想いがきちんと届いていることだろう。
なぜなら月の光りに照らされて静かに座っている二匹のうさぎの回りには、うっすらとピンク色の光りがあって、それは二匹を包んで、ハートの形を作っていた。
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