たりたの日記
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2003年08月01日(金) |
黒川温泉、くつろぎどころ |
黒川温泉を一度訪れたいと思っていた。雄大な阿蘇の山々と久住連山の懐に抱かれて黒川温泉は豊なくつろぎ空間を作っていた。日本各地の温泉街、そのどこにもそれぞれに特徴あるたたずまいがあるが、初めて訪れたこのちいさな温泉地に、私はなんとも形容しがたい独特なやすらぎを感じた。
ここには25ほどの温泉宿が集まっており、それぞれの宿が個性的で趣味がいい。また温泉の泉質も均一ではなくそれぞれに特徴がある。そんな温泉を楽しめるように「黒川温泉露天巡り入湯手形」があり、一枚1200円の手形を求めると3ケ所の露天風呂に入浴できることになっている。もちろん一件だけに長湯を決め込むこともできる。どの露天風呂も入湯料は500円だ。
夫と二人であれば間違いなく手形片手に露天を梯子するところだが今回はあまり体力に自信がない母を伴っているので、お風呂の後に休憩ができる露天の中から「のし湯」を選んだ。
うっそうとした木々の脇をわずかな坂道を上がると左手に宿の入口があった。木々に囲まれた古い民家はしいんとしていた。土産物であふれかえる温泉宿とは趣を異にする静けさは建物やその場が醸し出すエネルギーに寄るのだろう。まず食事処「木べえ」に入る。昔の馬小屋をそのままの形で生かしたその建物は遥か遠い記憶の中の祖母の家の匂いがした。塗っていない土の壁、細かい目の堅い畳、壁に掛けられた編み傘。「ねえ、おばあちゃんの家を思い出すねえ」と私「そう、編傘はじんぱちと言って、雨が降る中、あれをかぶって田植えの手伝いをしたものだった」と母。半分開いた木戸の向こう側は自然のままの薮。夏だというのにひんやりした風が入って来る。
私達は少し高くなっている中二階に陣取り、テーブルの上にしつらえた炭火火鉢の上で地鳥やビーフ、野菜などを焼きながら、ずいぶんゆっくりと食事した。 食事を終えて中庭を歩いて露天風呂へ行く。露天は木々の中にありひっそりと薄暗い。シャワーも洗い場もない。温泉地の自然を守るためにできるだけ石鹸等は使わないでくれと書いてある。純粋にお湯を楽しむ場所なのた。お湯の温度のぬるめなスポットを見つけて母と話ながらゆっくりと半身浴している内に夫との待ち合わせの時間近くになってしまった。一時間半もお湯の中に入っていたことになる。 すぐ脇の喫茶室にはひとあし先に上がった夫が大きなテーブルについて一人コーヒーを飲んでいた。ビバルディーの四季から「夏」がかかっている。きっと夏の間中この曲が流れ秋の訪れと共に音楽も次の楽章へと移るのだろう。 今度ここを訪れる時にはどの楽章を聞くことになるのだろう。秋の楽章は無理だろうが、冬か春の楽章には間に合いたいと思った。
私の実家から僅か一時間足らずのところにあるこのくつろぎ空間。母も満足な様子だったし、これからはここに来ることを帰省旅行の日程に組み入れることにしよう。
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