たりたの日記
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2003年03月25日(火) 猫と暮らす人にはなぜか縁がある

昨日、連れ合いのmGがPさんのサイトの掲示板へ「猫と暮らす女性について」という書きこみをしていた。ふうん、文章だとこういう感じなんだ。その文章はなぜか生身の本人よりも本人らしい。

さて、その猫と暮らす女性ならわたしも知っている。そしてmGがPさんのところでその女性のことを書いた訳もなんとなく分かる。「ひとみさん」とわたしたちが呼んでいたその女性のしなやかさや自由さ、そして不思議さがどこかPさんと似ているのだ。

わたしがmGと出会ったのは、彼がひとみさんのアパートへの居候を終え、いくらか血色も良くなった頃だった。スペインオムレツを食べさせてくれたという、元彼女でも、ガールフレンドでもない、ミステリアスな年上のその女性に会ってほしいと彼は言う。なにやらあやしげな場所に出入りしているらしいmGとは違って、当時のわたしは夜の10時まで音楽棟の練習室でバイオリンやピアノを練習するという超真面目な学生だったので、彼女に会うことも、またヒッピーっぽい人たちの溜まり場へ出向くことも、かなり気後れしていた。いくらmGが危険な男には見えないといっても、栄養失調の彼を助けるべく、一週間も女ひとりのアパートに泊めて日々栄養をつけてやる女性などと聞けば、それだけでビビる。わたしの数段上を行く女だとライバル意識などは抱きようもなかったけれど、どんな評価を受けるのだろうかと不安ではあった。

シタールの音楽が流れ、ふらりとなるような強いインドのお香が漂うその喫茶店。隅の丸テーブルに彼女がいた。その時わたしはジーンズに黒いタートルネックのセーター、その上からオリーブ色のふわっとしたモヘアのオフタートルのセーターを重ね、黒いセーターで覆われたの首の真ん中あたりに緑色の四角い皮のブローチを付けていた。彼女は屈託のない輝くような微笑で、「あなたのその格好、好きよ。そのブローチの位置がいい。」となにかそんなことを言った。

なぜだか良くはわからなかったけれど、わたしは彼女に気に入られ、今度夕食作ってあげるからいっしょにおいでよと招いてくれた。それからしばらくして、彼女のアパートを訪ねたが「わたしのとこアンアンとかノンノンなんかに載っているような部屋じゃないから、期待しないでね」と前置きしただけのことはあって、美しく妖艶な彼女の風貌とはちょっとそぐわないくらい殺風景な部屋だった。その家の装飾といえば、2匹の美しい白猫くらいで、猫たちが出入りできるようにだろう、トイレのドアは開いたままだった。猫を飼っているというよりは猫たちといっしょに暮らしてるという印象で、もしかすると彼女も猫ではないのかと思えるような不思議な空間だった。当時、わたしは猫がすぐ側を通っただけで身がすくむというほど猫が苦手だったから、彼女の作ってくれたおいしい炊き込みご飯と上等な牛肉のしぐれ煮をいただきながらもそわそわと落ち着かなかったことを思い出す。

さて、mGと結婚した後、彼女から渡したいものがあるから出てこないか、と昼間に電話をもらった。待ち合わせの喫茶店へでかけていくと、彼女は「これお祝い」と言ってキースジャレットの新譜のLPレコードをくれた。その後で彼女はこんなことを言った「結婚したらもうわたしのものって安心するとだめだよ。彼はそういうのいやになるだろうから。」その時は彼女の言うことの意味が分らないでポカンとしていたような気がする。今になって思えば、飼い主に忠誠を誓う健気な犬のようなワイフにはならずに、気侭で我侭な猫のようであればうまくゆくよと、そんなアドバイスだったのではなかろうか。彼女の忠告を守ったというわけでもないが、わたしは猫のようにmGと暮らしてきたような気がする。とすれば、彼も猫と暮らす人ということになるだろうか。

ところで今日はmGの46回めの誕生日。帰りは遅くなるだろうけど、上等なワインとチーズでお祝いをするとしよう。





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