たりたの日記
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2003年02月18日(火) もうこの地上にはいないあなたへ

普通の何の代わり映えもしない朝のはずだった。いつものように仕事をいくつかこなし、昨日と同じように今日は続いているはずだった。どうしたわけなんだろう。出かける時間を気にしながら、もう一月以上も覗いていなかったその掲示板を思わずクリックしたのは。そこにはあなたの死亡通知があった。今日の深夜の日付だった。追悼やお悔やみの言葉を私はどうしてもそこへ書けずに、ふらふらと自分の日常へ戻っていったのだった。ふらふらと。今日は仕事があったから。

今日はもう昨日のようではいない。それなのに私の日常は何事もおこらなかったかのように続いている。あなたはもうこの地上にいない?いやそんなはずはない。私にはまだあなたから電話がかかってくるような気がしてしかたない。あの物憂いような優しい声で私のもうひとつの名前を呼んで。いつかのように「あたし死んでなんてないよぉ」と笑いながら。あぁ、いつかのようにそうやって電話の向こうとこちらとで笑いころげることができたらどんなにいいだろう。

病を抱えながらも、あなたはすざまじく生きていた。新しい仕事への青写真も持ち、学校へも通っていた。つい最近、新しい住居で新しい生活を始めたとあなたは書いてきた。そんなあなたにわたしはすっかり安心してもいた。書込みがないのは元気な証拠、電話がないのはうまくいっているからと。あなたの安否を知るためにサイトを訪ねる必要ももうないと思っていた。

でも、あなたは逝ってしまった。
あなたの体の中で一体何がおこったのか、私はそれを知らない。人並みではない病気を抱えていたのだもの、わたしの知らないところで病は進んでいたのかもしれない。思いも言葉もいつもいっぱいに抱えていたあなたがその最後の日々を何に向けて誰に向けて語ったのか、あるいは何も語らなかったのかそれすら分らない。あぁ、考えてみれば、あなたにはまだ会ったこともなく、あなたの住んでいる場所もいっしょに暮らしている人の名前さえも私は知らないのだ。ネットの海の中で出会い、繋がりは言葉だけだった。「あなたの表現が好き、あなたの言葉に触発される」とあなたはいい、わたしはあなたがそのように生きているというその事実に励まされ、勇気をもらい、何よりあなたを尊敬していた。

あなたには時々、吐き出す場所が必要だった。あなたが何かを言うことで誰かが傷つくことをあなたは恐れていたから。あなたが言うことを口外することなくただ黙って聞いてくれる人間が時に必要だった。わたしはあなたを取り巻く人と接点がないし、求めようともしていない。私があなたから告げられることは私の心以外のどこへもいかないことをあなたは知っていたし、事実その通りにした。あなたが私に話したいことだけを私は聞くというスタンス。それ以上にあなたの心にも生活にも介入しないという私の距離の取り方。それはあなたが一番よく知っていた。そしてそれで私はよかった。

だから私はいっさいの詮索はしないし、あなたが私に告げなかったことをどこかから聞き出して確かめようとは思わない。あなたは私に伝えたいことだけ伝えたのだから、あなたが私に言わなかったことは何ひとつ、私には知る必要はないのだと。それより、あなたが今いるところのことを私は思うことにしよう。肉の痛みや心の傷、様々な柵からいっさい自由になって、あなたの魂だけを抱いて、今あなたがいる場所のことを。あなたは懸命に生きた。懸命に悩み、懸命に愛した。そんなあなたに今安らぎがあたえられていないことなどないとわたしは信じている。

あなたとは、とうとう地上では会うことができなかったけれど、私たちいつか会える、そんな気がしてる。私はすこぶる強健な肉体と頑丈な心をいただいているのでまだまだ地上でやるべきことが残されているようだが、でもあなたの分まで生きるなんて言わない。あなたは37年という歳月を誰にも真似できない密度の濃さで駆け抜けて生きたのだから。十分に生き抜いたのだから。そしてさようならも言わない。そもそもわたしとあなたは魂と魂とで繋がっていた。あなたの肉体がこの地上にはないとしても、あなたの魂は存在するのだから。私の心からあなたがいなくなることはないのだから。






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