たりたの日記
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2003年02月13日(木) 愛のソネット4 < その愛 >

28歳の大学院生だったヤン・アンドレアがマルグリット・デュラスを訪ねた時、デュラスは66歳だった。彼女の代表作「愛人(ラマン)」は作家が15歳の時の中国人青年との最初の性愛経験をもとに書かれた自伝的小説だが、この作品が刊行されたのは彼女が70歳の時。あの文章がヤンとの生活の中で紡がれていったことを改めて知る。 彼女はヤンとの間に愛を育むことで15歳の少女にも成り得たのだろう。回想にしてはその表現があまりにみずみずしく鮮烈で、なぜデュラスという人はそんなにも遠い昔の自分をこれほどまでに生々しく描き出すことが可能なのだろうかと不思議に思っていた。
あの稀有な作品がその稀有な愛の中から生まれたと考えれば納得がゆく。
愛はまた様々なものを生み出す。音楽になり、絵画になり、小説になり、そして詩になる。その甘さも苦さもそこへ閉じ込めて。


 愛のソネット4


         その愛


はじまりは言葉だった
男は女の綴った言葉の海へ恋に落ち、女へ言葉を届けた
女は言葉を受け取る、そこにある優しさも情熱も
日に何度も届く手紙、二人の間に降り積もりゆく言葉

5年が過ぎた時、これから人生を始めようとする若者は
これから人生を閉じようとする老女のもとへと向かった
言葉ではなく手で愛撫し
言葉ではなく目で見つめる

男と女は愛し合い、また傷つけあう
歓びと苦渋、高揚と絶望、愛とはそういうもの
女の口は物語を再び語り
男はその声を指先で打ち込み文字へと変えた

   その愛の話を人々は読み継いでゆくことだろう
   その愛の形をわたしも今日、深く心に刻もう






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