たりたの日記
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昨日の日記には午前中のことだけしか書かなかったが、午後は午後でまた魔法のような時間ではあった。
この日の午後はミュージカル「森のおく」の中の歌で私が作詞と作曲を受け持った「どこにいるのこねこ」の編曲と、やはりミュージカルのエンディングの「会えてよかった」の編曲をWさんにやっていただくというもうひとつの仕事があった。保育室のピアノを貸していただけるというので、あそぼう会が終わるとそのまま作業に入った。
といっても私はイメージはあっても複雑なコードの知識はないし、アレンジのテクニックは持ち合わせていない。Wさんがそれこそ魔法のように取り出してはピアノに歌わせる様々なリズムや和音やフレーズを、「あ、それ、いい」とか「もうちょっとゆっくり弾いて」とか「ここはこんなイメージで」とか注文をつけるのだからいい気なものである。
「どこにいるのこねこ」には2重唱のシンプルな旋律の歌にクラッシックではあまり用いられないしゃれた和音が重ねられ、フレーズの切れ目では右手でジャズ風の流れるようなフレーズが加えられる。こういう和音やフレーズは私の中からはとうてい出てこない。イントロは思い切って装飾音を省き、暗い森の中に分け入っていくどきどきしたリズムと暗い和音でまとめてもらう。私が作った歌が立体的で奥行きの深い音楽になっていく過程はエキサイティングだった。
エンディング「会えてよかった」をミュージカルのラストシーンらしく盛り上げるためには、どうすればいいだろうと試行錯誤し、早いテンポの歌を繰り返しの前でいったん切り、そこから思い切ってテンポを落とし、伴奏はアルペジオに変わる。そして最後の部分はさらに2倍にテンポをひきのばす。Wさんはそこを左手のトリルでおもいっきりドラマティックに盛り上げていきながら、顔には苦笑。
「これってクサクない?」
これはジャズをやる方の当然のリアクション。お気持ち分ります。
「そうね。でもミュージカルって、そもそもがクサイものなのよ。いかにもブロードウエイっていう感じよ。このエンディング」と、私。
自分たちの音楽のテイストとはちょっと離れても、舞台のラストで音楽にどのような効果をもたせるか、気持ちはそこへ向かう。
ところで最後の曲の伴奏でWさんが選んだのはサンバのリズムだった。これは軽やかで躍動感がありでラストに全員で歌うにはぴったりなのだが、もともとテンポの速いリズムなのでそのテンポのままだと言葉が追いつかない。歌うということにポイントを置くとどうしてもサンバの通常のリズムをいったんゆるやかなテンポのボサノバ風に変える必要が出てくる。しかし2ビートで取っていたリズムをいきなり4ビートでと言うのは簡単だが弾く方としてはそんなに簡単にはいかない。苦労してやってくださる。
せっかく創った音、採譜する前に忘れてしまうことだってあるかもしれない。保育室の脇で泣き喚く子供や遊ぶ子供の声が混じっても仕方ない、MDで録音してとりあえず、今日の作業は記録することができた。保育室の園長のTさんが「よくがんばるねえ」とコーヒーと梨の差し入れをして下さる。朝9時半にこの保育室に入ってからすでに10時間が経過していた。Wさんはその間中ピアノに向かい、私はその間ずっと歌っていたことになる。傍からは、クレイジーに見えたことだろう。
昼の休みも取らないままだったので疲れているはずだが、創造的なことにかかわることができたさわやかな充実感と達成感があった。
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