たりたの日記
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人は何という思い込みの中で生きていることだろう。 真実だと疑わなかったことが実はイリュージョンであり、どこにも実態のないものであったことがふとした瞬間に明らかになることがある。 落胆、失望、虚無、そういったものの中に瞬時に突き落とされる。 一瞬、それまで築いてきたものがガラガラと音を立てて崩れていくのを目の前にし、そこにはぽっかりと虚無が大きな深淵の口を開け、人間を誘う。 しかし人間とは良くしたものでそういう大きな落胆の中にひきずりこまれようとしながらも必死で生き延びる道を見つけようとする。 様々な思い変えを試み、闇の力に打ち勝とうとする。
つい最近語ったグリム童話の「熊っ皮」の話の最後のフレーズを思い出す。悪魔と取引した若者は最終的に悪魔に魂を奪われることなく勝利したのだがその 若者の前に悪魔が現れ捨て台詞を残していくのである。 「どうだ、お前の魂ひとつの代わりにふたっつの魂を手に入れたぞ。」 若者が勝利したその一方で花嫁の2人の姉達は怒りと失意の果てに自ら命を絶ったからである。
悪魔のねらいはここである。人間の魂が闇の中を落下していくこと、光を離れて虚無の只中へと墜落するのを見届けることである。そのためにはどんな手段も選ばない。
そういう悪魔の手口を知っている者はしかし、やすやすと自分を虚無の谷にほうり投げたりはしないのである。失望は失望として、それを許しや愛や望みへと変えようとする。そしてある意味で自分のプライドを手放してしまう。そうすることでふっと底の方から支えられ虚無の深淵から浮上するのである。
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