たりたの日記
DiaryINDEX|past|will
21才になった春、私はほとんど強引に家を出て、一人暮らしを始めた。大学へは家から十分通えたが、このまま家に居てはいけないと感じて、先輩が卒業して引き払うアパートにさっさと引っ越した。その時から私は私の生まれた町を離れ、父母の元を離れ、自分だけの空間を持つことになった。親たちは勝手な娘だと思ったことだろうし、近所の人たちからもなにをわざわざと言われたが私はいつからか夢に見てきた一人暮らしが何ともうれしかった。私の生まれた町は時々帰るところとなり、こちらに出てきてからは一年に一度訪れるところになった。
ふるさととの距離は離れるばかりだと思っていたが、最近そうでもないことに気がつく。一度は遠のいていたふるさとが、これまでと違った角度で私に近づいてくるような気がしている。私が歳をとったためだろうか。それとも親が歳をとることで関係に変化が生じたためだろうか。とにかく帰省する度に印象が変わっていく。町の小さな駅を降り立ち、なつかしいような、昨日も歩いたような妙な気分で母の待つ家に向かって歩く。ふるさとはまたこれまでとは違った顔をしている。
桃の節句だからと母は散らし寿司と甘酒を用意してくれていた。私が小さなころ、甘酒は毛布を巻かれたかめの中に入っていた。麹と米が白くて甘い飲み物なるまで時々毛布をはずして味見をしながら辛抱つよく待ったものだった。母はこの甘酒を炊飯ジャーで作ったらしい。ちょっと味気ないが味は昔のままだ。
一日はNHKの朝のテレビ小説に始まり、決まりの番組に付き合いながら、こういう朝の過ごし方があることを思う。日ごろテレビを付けないまま過ごしているが、こうやって見ようと思えばいくらでも見れるものだ。昼から母といっしょに庭の草取りをする。水仙がいっせいに咲き出していた。
|