たりたの日記
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2002年02月21日(木) 強靭な孤独

福永武彦の「愛の試み」はなつかしいと表現できるものではなかった。それは私の世界だったし、まるで私の内から出てくる言葉のようでもあった。これほど長い年月の間、私はその作者と何も関係なく生きてきたのに、実は自分でも意識しないで二十歳の頃取り込んだ彼の思想や言葉を繰り返し反芻しすっかり自分のものにしてしまったのかもしれない。またはもともと私の内にある言葉にならない思いを作者の言葉の中に見出して、ある時その作家にぴったりと寄り添っていていたのかもしれない。

この本の最初のエッセイは「孤独」と題されるもので私はその書き出しがとても好きだった。そして今も同じように好きだと思った。それはこういう文だ。

「人は孤独のうちに生まれてくる。恐らくは孤独のうちに死ぬだろう。僕らが意識していると否とに拘わらず、人間は常に孤独である。それは人間の弱さでも何でもない、謂わば生きることの本質的な地盤である。」

孤独だったと言っていいだろう。親も兄弟も友人も恋人さえもいたのに孤独だった。そしてその孤独に育てられてもいた。あの頃の孤独はしかし作者が語るようなより積極的な、強靭な孤独にはまだほど遠かった。今だってまだ遠いが。
2つ目のエッセイ「内なる世界」の冒頭をここに書きとめて今日を閉じるとしよう。

「人は生まれながらに固有の世界を持っている。その世界はいわば孤独というのと同意義なのだが、決して悲劇的な、閉鎖的なものではない。それは充足した、円満な、迸り出る世界である。」


たりたくみ |MAILHomePage

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