たりたの日記
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その昔、教員をしていたころ暮れに泊りがけの忘年会というのがあった。新卒の頃だったし、先輩の先生方との飲み会は苦手だった。やはり教員をしていた母はクリスマスイブがこの泊りがけ忘年会で、私は家族のためにクリスマスイブの食事を用意しながら、この忘年会を恨めしく思っていた。忘年会にあまり良い思いではない。専業主婦となってからはこうした宴会ともすっかり縁がなくなってしまった。
子育てを中心に1日が回り、1年が過ぎ、クリスマスの後は年賀状に大掃除、正月の準備と追い立てられるように年の暮れを過ごしてきた。しかし、そんな時期がそうやら新しいステージに移行してきたようだ。この暮れの忙しい中、年賀状も大掃除も後回しにし、夫と箱根へ出かけた。忘年旅行ということにしよう。温泉に入るというだけの予定なので朝は洗濯などもし、ゆっくり出かける。幸い高2の次男はバスケット部の合宿中だし、長男は大学生になってから夕食も家で食べないことが多いから子ども達の心配はない。会社の契約保養所のホテルに宿泊すれば、宿泊費は随分安いし、平日は予約が取れやすい。夫の提案で急に思い立ったことだったがこんなうまい具合に行くこともあるもんだ。仕事を残してきたものの家から出て走る車に乗っていると開放感に包まれる。箱根に向う車の正面に真っ白な富士山が美しかった。夫からのクリスマスにもらったチェリーピンクのセーターに友達の0さんからのクリスマスプレゼントのワイン色のアニマル柄のスカーフを合わせると華やかな感じになって気持ちも晴れ晴れとしている。
さて車の中でおにぎりとバナナケーキの昼食を取り、午後2時近くに箱根ホテル小涌園に着くとさっそく温泉へ。ここは森の中の静かなホテルで、離れにある温泉は ガラス越しに林があり、露天はまさに木々に囲まれていた。サウナに入っていると後から入ってきた方がににこりと微笑まれた。この土地の習慣かしらと思って、「林がきれいですね。」と話しかけると"I don't speak Japanese."と帰ってきた。どうりでにっこりと笑いかけたのだ。香港から家族で旅行に来ているということだった。香港には温泉がないので日本に温泉に入りに来るのだという。日本人は礼儀正しくて、静かで、日本に来るととてもリラックスするのだというのを不思議な気分で聞いていた。彼女は去年ここを訪れすっかり気に入り今年は3泊し、その後大阪と京都へ行くとのことだった。彼女が出ていった後、中国語と英語で話しをしている若い女性の3人組みが入ってきた。タオルをお湯に浸けているので「日本の温泉ではタオルをお湯に浸すのは良いマナーじゃないのよ。」と話しかけると驚いてタオルを引き上げ、それがきっかけで話しをした。香港生まれだが今はオーストラリアに住んでいるという。どうりで中国語と英語がちゃんぽんになっていたのだ。彼女たちも出ていって、しばらく目を閉じてじっとしているとにぎやかな歓声に英語が混じって聞こえる。見ると黒人の親子らしい3人組みが水着で露天風呂へやってきたのだった。シャワーをあびているところへ従業員の人がやってきて日本語でここでは水着を脱いで下さいと言っているし、彼女たちはどうもそれが不服のようだ。水着を脱がなくてはならないことは理解したようだが抵抗がある様子だった。温泉では水着をぬぐのよとお母さんらしい人に言うと、”It's bad."と不満な顔をして見せたので「水着をぬぐと気持ちがいいわよ、やってごらんなさいよ。」と言う。やがてしぶしぶと水着を脱いだが、やがて広い内湯で泳ぎ始めた。「温泉は泳ぐところじゃないのよ」と言おうとしたが止めた。水着を脱ぐだけでもかなりがんばったのだから、人も少ないし、泳ぐくらいは大目に見てあげようと思ったのだ。
車で4時間近くかけて箱根の温泉まで来るなんてと自分たちの事を思っていたが、香港から、オーストラリアから、そしてアメリカからも、温泉を求めてやってくる人がいるのには驚きだ。最近、温泉がブームになっていると聞くがそれは日本だけにとどまらないのかもしれない。観光地の温泉に行く度に必ず外国人に会う。温泉で様々な国の人々と文字通り裸の付き合いをするのはなんとも愉快なことのように思える。
ホテルの中には家族向け、宴会系、和食、洋食といくつかのタイプのレストランがあり、一通り見てまわった後、人のあまりいない静かな洋風レストランに決める。ガラス窓の外にはぼんやり光に照らされた夜の木々が見えていていい雰囲気だ。テーブルの上のアルコールランプの光に気持ちがなごむ。食事もサービスも丁寧で行き届いており気持ちが良かった。
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