たりたの日記
DiaryINDEX|past|will
イベント好き
もうじき19歳になろうとしている我が家の長男Hは、学ランを脱ぐや否や、水を得た魚のように泳ぎ始めた。CD屋で声をかけたアメリカ人がTシャツアーティストだった。息子はアシスタントを見込まれ、色々なイベント会場でTシャツを売る手伝いをする。大学の仲間と昼御飯を食べている時に声をかけてきた外国人が日本の若者を取材しているジャーナリストだった。彼女のプロジェクトの通訳をしたことがきっかけで、出会いが広がっているようだ。来週は200人集めてのパーティーを主催するとかでかけまわっているが、本人の名前が印刷されているパーティー券を見て、ふっと溜め息が漏れる。大丈夫なのかしら。全く、このイベント好きはいったいどこから来ているんだろう。ふと父の顔が浮ぶ。父にこのことを話したら、顔中くしゃくしゃにして喜ぶことだろう。父はこういうことが好きなのだ。息子のイベント好きはおじちゃん譲りにちがいない。
その日父は非番で、とりわけやることもなく、絵を描く気にもなれなかったのだろう。家の脇で泥だんごをこねていた私と弟といつもの遊び仲間に、展覧会をするぞと宣言した。突然思い付いたに違いなかった。頃は秋、文化の日も近かったのだろうか。父はまず、私にお金を渡し、近くの駄菓子屋で、キャラメルを人数分買ってくるように言いつけた。子どもをその気にさせるには、まずは賞品、なかなか子どもが分かっている。父は買ってきた森永のキャラメルのひと箱ひと箱に「秋のてんらんかい参加賞」と書いた紙を張り付けた。子どもたちがやる気になったところで、父はそれぞれに画用紙を配り、絵を描くよう指示した。私たちがもくもくとクレヨンで絵をかいている間、父はどこからか大きな紙を持ってきて、掲示版を作っていた。絵が描き上がると、今度は習字だという。いっしょに遊んでいるうちの二人は2学年上だったし、同級の子も、お習字を習っていたからみな習字が書けたけど、わたしと弟は習字の経験はなかった。くねくねと思うようにならない筆で、薄くて頼りない紙に、見よう見まねで「くり」と「きく」を書いたがなんとも不本意なできばえだった。硬筆コンクールの作品を出す時には、横で見張っていて、何度も書きなおしをさせたのに、わが子に習字の指導をしようとしない父をいい加減だな思った。ともあれ、夕方までにはいくつかの作品が出来上がり、展示の運びとなったのだった。
父は大きな紙を何枚か張り合わせたものを、私の表のおかってぐちから玄関まで張り巡らせ、紙の上には「秋のてんらんかい」というタイトルを付けた。その文字はいろいろな柄の包装紙を文字の形に切り抜いたもので、その文字のおかげで一変に、展覧会らしくなった。作品がその下に並び、名前の札も付けられた。さながら秋の野外展覧会といったところだ。友だちのお母さんやらお姉さんやらが見に来ては誉めてくれた。家は道に面していたから、通りかかる人も見ては声をかけてくれたような気がする。最後の仕上げに、父はカメラを持ち出し、子供達を作品の前に並ばせ、記念写真を撮った。 写真の中で、どの子も賞品のキャラメルを手に、得意気な顔をしている。
|