たりたの日記
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2001年04月24日(火) |
ダンサー イン ザ ダーク |
今朝、起きぬけに、以前に映画「ダンサー イン ザ ダーク」のファンのサイトで、この映画についてバトル(?)したことを思い出した。ある方がセルマは壊れていたという書き方をしていたので、それに対する反対を書いたのだが、「宗教を持ち込むのは良くない。」「悪魔なんかいません。」という論調でうさんくさい目で見られてしまった。その方のシャープな見方に触発されて書いたものだったのに、、、。それ以来、その方は「セルマから足を洗います。」と、それまでの書き込みも全部消されてしまわれた。それ以来私も、そのことについて書くことはなかったのだが、なぜか今またセルマが呼びかけてくる。なんなのだろう。 何かここにあの時、宙に浮いてしまったセルマのことについて書いたものをここに載せたくなった。日記なのだから、かなりのひとりよがり(承知している)も許してもらうことにしよう。
セルマ、魂の勝利
果たして、セルマは壊れていたのだろうか?けれど、人によって何を壊れているとみるか、そこからして違うのだ。 私の見方では、セルマはまれに見る強靱な魂を内に有している人。そして当然それが壊れてしかるべき状況のなかで、彼女は自分の魂を守り通した。 自失していたセルマにキャシーが叫ぶ、Listen to your heart! あなたの心に聞きなさいと キャシーもまた、内なる声に促され、はじきだされるように、セルマにかけよったのだった。そして、セルマはこの声に助けられ現実と彼女の魂の世界をそこに統合することに成功した。完全なパフォーマンスである。完全なパフォーマンスというものが人間を目に見える現実から、目には見えなくとも実際のそれより、はるかな広がりと奥行きをもったさらに大きな現実(それが幻想でも、虚実でもないという意味において)の存在を目の当たりに見せるものだとすれば。
この世でのセルマの人生は過酷な生活を送るということだった。しかもまだ足りないといわんがばかりに彼女は不幸へと落ちていく。監督ラ−ス フォン トリアーは、セルマを徹底的に不幸へと落とし入れる必要があった。なぜなら、彼は不幸が、ある時その人間を破壊するのではなく、その魂をさらに光らせ澄んだもの、完全なものへと近づけていくという彼の深いところにかかわる人間観(宗教観といったほうが適切かもしれない)を持っていると思うからだ。 そして、それと対比するように、ビルを隣に並べた。不幸が魂をむさぼっていくというもうひとつの事実。二人の魂は激しく拮抗する。目に見える世界では、セルマの殺人という状況でしかない。しかし、別のレベルではそれ以上のことが進行していたのである。セルマは自分の息子を失明から救うために爪に火を点すようにしてためたお金をぬすんだビルに対して逆上はしなかった。むしろ、そこなわれようとしている魂への深い同情と、悪魔に見入られたその魂に正面から向かい合おうとする沈着した果敢さをたたえていた。セルマはこれはあなたのものではないときっぱりといい、金を奪い返す。そしてここからが闘いが始まる。ビルはセルマに哀願する。「こんな自分をいっそのこと殺してくれ」と。セルマの魂に触れることで、ビルの魂は一瞬正気に帰ったようだった。ビルは悪魔にやすやすと心を売った惨めな自分の姿を垣間見たように見えた。しかし、彼の魂を手にいれようとする悪魔も必死だ。ビルはひるがえって、セルマをさらに落としいれようとする。ここではもうセルマは人間の魂を自分のものにしようという悪魔と闘う他はない。セルマはもう自分を守る余裕もない。ビルが悪魔から引きずられながらも、辛うじて吐き出した、「殺してくれ」という、セルマが聞き取った彼の魂の声に従うしかなかった。魂の声に従う。これが徹頭徹尾セルマという人格の中心をなすものであったから。
魂は勝利した。目に見える現実ではセルマの屍しか見えないが、目では見えないもうひとつの世界では、勝利したセルマは祝いの席へと招かれる。 彼女の帰る場所へ、高らかに歌いつつ旅立つ。 .............. I'm softly walking on air Harfway to heaven from here If living is seeing I'm holding my breath In wonder- I wonder What will happen next? A new word -a new day Too see.... ラストシーン! ラ−ス フォン トリアー監督の持っていきたかったところへ観客は無理矢理に連れていかれる。彼が何としても、観客を連れて行きたかった場所。彼にとって非常にパーソナルなそれを多くの人間と共有したいという無謀ともいえる情熱!しかし彼も勝った。そう私は感じた。
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