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2007年04月18日(水) 世界との関わり方を身につけるための書

夏掘睦・加藤弘通(編)『卒論・修士論をはじめるためのー心理学理論ガイドブック』ナカニシヤ

編者の加藤さん、著者の伊藤さんからご恵送いただきました。
ありがとうございます。本書は16の理論を、その代表的な著書を通して紹介するものです。・・・というと、編者に怒られるかもしれません。
本書は理論を「お勉強」するのではなく、使いこなすための書であるというのが特色でしょう。

(A)bstract・・・概要
(B)ackground・・・背景
(C)reativity・・・新しさ
(D)irection・・・方向性

の4つにわけて理論がコンパクトに解説されています。「お勉強」ではなく、「使いこなせるようにする」ことをねらった本書ならではの構成です。ABCDと文字合わせになっているのもかっこいいですね。このABCDが指し示すところを自分なりに考えると、研究するということは、自らと「世界」との主体的な関わり方を探すということになのかなと思います。

僕はよく学生にいうのは次のようなことです。

虐待でも、精神病でも、なんでもいいけれど、それらについて書かれているような本を読みなさい。1−2冊読んでみて「面白かった。だいたいよくわかった」と思えたら、それはあなたのやるべきテーマではない。そうじゃなくて、「自分ならどうするだろうな」とワクワクしたり、「そうなのかな、そういうふうに考えちゃうんだ〜」と違和感を感じたりするものに出会ったら、そこからやっと「テーマ」探しがはじまります、と。

知識として消費するのではなく、生産者になるというのが論文を書くということで、そのためには主体的に「世界」に関わっていかなければならない。理論とか認識論というのは、そういう「世界」に関わるさいのスタンスのようなものだと僕は思います。

ただし、さらに著者らがいうのは理論をメタに読みこなすことが大事だということのようです。ベタ読みからメタ読みと、これまたうまいことまとめられています。ベタ読みというのは、僕の理解したところによれば、理論に書いてあることをそのまま忠実に習得するということでしょう。で、それをさらに一段階メタな立場から、相対化しようということのようですね。つまり、さきほどの私の「世界にかかわるスタンス」という例にそくしていえば、「世界」と関わるとしても、盲目的に自分の立場を自明とするのではなく、自らの関わりを自覚しつつ、関わるということが大事になるということでしょうか。なるほど、これはとても重要な視点だと思います。

ただ、こういうのって、しかし、なかなか学生には伝わらない、というかおそらく言葉は伝わっているのですが、やるのは難しいということなのでしょうね。精神論じゃだめで、ツールが必要なんでしょう。

そういう意味で、ABCDという様式に従って読み込み、また自分でもそうやってみると、自然と問題意識がうまれるのだったらこれはとてもよい教育ツールになると思いました。

僕自身、最初に理論を学んだ頃というのは、理論書ではなく、それについて論評しているものを読んで足場をつくった覚えがあります。もちろん、いつまでもそのままではいけなくて、いずれ理論から自分の頭で考えていかなければならないのでしょうね。理論に一度は埋没して、そこからでないと相対化もできないのではという声も聞こえてきそうです。だから、原著にあたれと。それはそうですが、それでもファーストステップを援助してくれるというのは、初学者には嬉しいことですね。

学生にもぜひ薦めてみようと思います。みなさまも、是非に。


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