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2007年04月01日(日) |
『子どもの妬み感情とその対処』 |
著者は宇都宮大学の澤田匡人先生。新曜社から。
ひょんなことからお知り合いになり、ご恵送いただきました。 本書は筑波大学に提出された博士論文をもとにしたもので、10の実証的研究がズラッと並んで壮観です。妬みがどのように経験されているのか、あるいは妬みはどのように帰結するのかという観点からまとめられています。
妬みというと、ダークな、ネガティブな印象が先にたちます。以前、北山先生のご講演を聴いたときにも、envyについてとりあげておられたのを思い出す。北山先生は「うらやましい」をenvyにあてておられたが、古来、「うら」とは「こころ」を表す言葉であり、「やましい」とは「病」。つまり、うらやましいとは、ある意味で、心の病なのだととらえられていたというのをうかがって、なるほどーと思ったことがある。
さて、澤田先生は「妬み」を経験した子どもが自分で努力したり、他人に助言を求めたりするといった「建設的解決」が用いられているといった、ご自身の研究結果をあげつつ、妬みの機能ということで、自分にとって何が大事なのかを知る契機となったり、どのような努力が必要なのかを知る契機になるということを挙げておられる。
ともすると「妬み」というとネガティブでダークなイメージがあるわけだが(もちろん、イジメなどにつながったり、破壊的行動につながる場合もあるということだが)、自らを成長させていける契機にもなりえるというのは面白い。
さらに、調査によれば高学年になれば、妬み感情にかかわって、なんとかなりそうだと思えれば建設的解決方略が用いられ、そうでなければ回避方略が用いられやすいようだ。こうした対処方略の柔軟性が、精神的な健康にも影響を与えているとのこと。
素人考えでは、このような柔軟性というのは、その子どもが生きていく社会のありようを反映するものでもあると思う。勉強(とりわけ5教科)ばかりが価値をもつような社会(親や教師)のありようが、子どもに柔軟性を失わせていくということも考えられることである。しばしば小学校の先生などが「子どもが6年間で1度は輝く学校を目指す」というようなことをおっしゃることがあるのは、その意味ではよいことなのだろう。
ネガティブな「妬み」をうみだす競争原理をもちこむべきではないというような教育界での主張に対しては、やればできることと、どうしょうもないことが世の中にはあるわけで、「成功/失敗体験をつみかさねつつ、他人や課題に対する効果的な関わりを学んでいく」といったように、それを有効に活用することを考えていくべきだと述べておられるが、同感である。
僕自身は質問紙調査というのはほとんどやらないのだが、こうやって丁寧に積み重ねられているのをみると勉強になる。「感情」をうまく研究していくというのは、難しいことだと思うのだが、今後、ますます重要になってくるテーマだと思う。感情研究をやる人には必読だろう。
ちなみに、澤田先生は本の紹介などをみると、大学で最も評価の高い授業をされる先生とのことである。すばらしい。授業作りというのは、けっこう難しいもので、もう4年間教えているが、まだまだ、これでOKといえるものはない。初年度は、勢いでやってたけど、いま改めてみると・・・・・・(汗)。一度、授業を見学させていただきたいものである。
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hideaki
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