英語通訳の極道 Contents|<< Prev|Next >>
まだ肩の力が抜けない。しかし、今しばし戦争の話題を離れて、英語に戻ろう。 以前、私とラジオ講座のつき合いは、故松本亨氏が「英会話」講師を退かれた時に終わったと書いた。実は、例外がある。 旺文社の「百万人の英語」だ。魅力的な講師が何人もいた。ユニークだったのは、土曜日放送(だったと思う)。ゲスト講師と電話で英会話できるコーナーがあった。そのゲストのひとりが、 ドキドキして聞いたものだ。 しかし、このラジオ講座も卒業。そして、もうラジオの英語講座を聞くことはないだろうと思っていた。その後25年くらいは。ところが‥‥ 長いアメリカ生活から日本に帰ってきて、ひょうんなことから通訳・翻訳など英語を使う仕事を始めると、ビジネスマンや企業経営者、そして学生・主婦などから、どうやって英語を勉強したらいいですか?という質問を受けるようになった。 英語教育市場には、「画期的な教材」、「驚異的な勉強法」が溢れている。何から始めればいいのか悩むのも無理はない。 私は何をやっても役に立たないものはないと考えている。あれこれ探し回るより、気に入ったものをとりあえず一生懸命やるのがいい。 それに、個人的な事情が異なるので、十把一からげに「万人にとってベストな英語勉強法」などを論じることはできない。 そうはいっても、より効果的、効率的な方法というのはある。すでに多くの大先輩方が、体験を通して習得したそういうノウハウを披露されているが、私も自分なりの経験則を少し述べてみよう。 ここでは特に、ビジネス現場で英語が必要な人達のケースを考えてみたい。英語を使う目的は、日常の会話に加えて、会議・交渉・連絡などだ。 留学・海外駐在などで英語をマスターした人は対象外だが、そういう海外経験者でも、英語にはもうひとつ自信を持てないという人は多い。逆説的だが、英語は日本に戻ってからこそ勉強できる。 さて、ビジネスマン・ウーマンの多くは英語初心者ではない。学校でも習ったし、多少の心得はある。だが、自由に使えるレベルではない。 自分の専門内容なら何となく聞いて分かる。ただ、細かい点で誤解する可能性がある。読むほうは、時間をかけ辞書を引けば大丈夫。意味が伝わる程度の文章も書ける。一番困るのが、しゃべる技術のようだ。 実際、ビジネスの現場で通訳していると、英語を聞くのは何とかなるが、しゃべるのが不得手という人がかなり多い。だから、一対一のミーティングなどでは、日本人発言者の「口」としての通訳者の役割が非常に大きい。 では、どういう英語勉強が、こうした忙しいビジネス人に適しているか? ビジネスの最先端で活躍している人は、とにかく時間がない。睡眠時間さえ十分にとれない。毎日1時間の勉強なんて、とても無理かもしれない。 そういう人は、やたら大きな目標を掲げないほうがいい。とにかく、ちょっとしたこと、毎日続けられること、楽ではないが楽しんでできることから始めるのが良い。それが仕事に役に立つとさらに良い。 重要なのは、続けるクセをつけることで、そのためにも「楽しい」という要素は欠かせない。楽しくする「工夫」が要求される。 「短時間」というのもポイントだ。ダラダラしない。たとえば、通勤の20分だけと決めれば、20分しかしない。それ以上はしない。 英語の勉強を日常生活の一部として取り込む。「歯磨き」と同じように「ルーチン化」することだ。 通勤20分だけの勉強でも、チリも積もれば何とやらで、一年後には自分でもはっきりと進歩が感じられる。 さて、そういうビジネス人に適当な教材がないかと、探していると、親友がヒントをくれた。NHKラジオの「やさしいビジネス英語」っていうのがいいらしいよ。 最初、私は半信半疑だった。単なる英会話じゃないのか。ビジネス人には内容的に物足りないのではないか。 ところが、試しに放送を聞いてみて、驚いた。 最高にいい!内容が非常に新しい。ビジネス現場が生き生きと再現されている。実際に使える表現が満載されている。講師の杉田敏氏に味がある。ネイティブパートナーの説明にもいちいちうなずく。 これしかない。これに決めた。故松本亨氏の「英会話」以来、久しぶりに感動するラジオ講座に出会った。 これを毎日聞く。タイマー録音しておくと、時間に縛られない。漫然と聞くだけではダメだ。声に出してリピートし、放送時間後には、何度も音読し、自然に口から出てくるまで練習する。ビニェットを覚える。 ポイントは、時間をかけない、そして集中すること。放送後10分あるいは15分という復習時間を決めると、それ以上はしない。たまに調子よくても、15分で打ち切る。 目標は「継続」。短時間で、楽しく、集中して。これを1年も2年も継続させる。まずは、この継続のクセをつけることが、成功の秘訣だ。 さて、この「やさしいビジネス英語(ビジネス英会話)」。プロで通訳をしているレベルの人たちにとっては、ほとんど新しく習う内容はないだろう。しかし、実は、現役通訳者にとっても、非常に役に立つ使い方がある。これについては、また次回。
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