2004年09月14日(火) 押しつぶされるような空の下
 

9/2からの連載になっています。まずは2日の「赤い糸のあなたとわたし」からご覧ください。


この日は、押しつぶされるような青い空だった。
わたしは、押しつぶされるという表現が好きだ。
とにかく、押しつぶされるような青い空と照らしつける太陽が共存して
わたしを、痛めつけるようないちにちだった。

「暑いなぁ、諭吉ぃ。」

相変わらず、わたしの後ろを尻尾をふりふりさせながら
諭吉はついてきていた。愛くるしい目をして。
諭吉は鳴かない。遠吠えもしない。
たまに、くぅん。と喉の奥から声をもらしている。
最近それが、お腹がすいてるときの意思表示だと分かった。

あごやら首やらに、汗がつたっていく。
たまらなくなって。わたしは木陰に逃げ込んだ。
よっこらせ、と地面に腰を下ろす。
そのすぐ隣に、どっこいしょと諭吉も座った。

赤い糸をたどって、もうずいぶんになる。
もう今いる街の名前すら知らない。聞いても分からないだろう。
それでも一向に、赤い糸の先に近づいてないような気がする。

(まさか、逃げてんのかな。)

わたしは、かばんの中からポッキーをとりだすと。
ぽりぽりかじりながら、赤い糸を眺めた。
わたしの口元に鼻を寄せ、くぅんと諭吉が声を漏らす。
わたしは笑って、半分諭吉に差し出した。
それにしても、暑い。

(なんか、腹立つなぁ。)

なんの予告もなく、わたしは突然赤い糸の先の相手にいらだち始めた。
差し込むひざしに、ますます怒りは大きくなる。
はっきり言って八つ当たりだけど。
諭吉は無関心そうにポッキーを食べていた。

(…)

突然わたしは、赤い糸を引っ張ってみた。
なんの手ごたえも感じなかった。
もう一度、わたしは引っ張ってみる。
思いっきり、全力で。まるで綱引きのように。

すると少しだけ、手ごたえがあった。
たしかに。先に何かあった。
わたしは驚いて、赤い糸から手を離す。

まちがいなく。
この先に誰かいる。
わたしとつながっている。

確信したその事実に。わたしは少しだけ震えた。

あいかわらず、うなるような暑さだったが
わたしは立ち上がる。
諭吉も、つられるように立ち上がった。

「さ、行こう諭吉。たぶん運命のヤローが待ってる。」

待ってないかもしれない。逃げてるかもしれないけど。
わかってないなハニー。逃げると追いたくなるものなのだよ。
わたしはふたたび歩き出して。
赤い糸の相手が引っ張られて、転んでたりして。
なんていう想像をして、少しだけ心が楽になった気がした。





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