2004年09月12日(日) 見えなければ。
 

9/2からの連載になっています。まずは2日の「赤い糸のあなたとわたし」からご覧ください。


ある日突然、自分の赤い糸が見えるようになったように。
ある日突然、他人の赤い糸まで見えるようになった。

「まじっすか。」

驚くことに、道行く人々すべてに赤い糸がくっついている。
おれはその光景に、目を丸くした。

なんていうか。かなり嫌な光景である。
目の前を仲良さそうに歩いているカップル。
お互いの赤い糸は見当違いのほうに伸びている。
サラリーマンにも、おじいさんにも、赤ん坊にも。
赤い糸はくっついている。
しかし、たまに切れているものもあった。
おれは、見てはいけないようなものを見てしまったような気になった。

ここ最近のおれの口癖は
「赤い糸がなんだバカヤロー」とか。
「神さまなんているか、クソッタレ」とか。
「運命がどうしたテヤンデー」とか。
「運命の相手なんてピー(自主規制)」だった。

きっと神さまの怒りに触れたんだ。
とおれは思った。

「ごめんなさい。もう言いません。」

とりあえず言ってみる。
が、あいかわらず人類の左手小指にぷらぷらと赤い糸はぶらさがっている。
誰もそのことに気づいていない。

(あ!)

そのとき、おれは向かいから来た男に釘付けになった。
その男の赤い糸は、目の前にいる仲の良さそうなカップルの。
彼女のほうと繋がっていた。
そのとき、おれは見たんだ。
向かいから来る男と、彼女がすれ違う瞬間。ふたりの視線が合ったことに。

ふたりは何事もなかったように、すれ違って。
彼女のほうは相変わらず楽しそうに、彼氏の話を聞いていた。

おれはひどく胸が苦しくなった。
ふたりに、赤い糸が見えなくて。本当によかった。
そして心底赤い糸を憎憎しく思った。
こんなものなくったって。
人は自分の愛する人と繋がっている。
こんなもの見えなくったって。
人は自分の大切な人を見つけ出せる。

おれはそう信じたいんだと、はっきりと思った。

「神さまの、ばかやろう。」

そう呟いた瞬間。目が覚めた。夢だった。
街にでても、他人の赤い糸は見えなかった。
おれの赤い糸は相変わらずぷらぷらと宙を待っていたけれど。

その繋がった先を見ながら、おれはふと思った。

(おれはこの人のことを、愛するんだろうか。)

見えなければ、何も知らなければ、どういうふうに出会って。
どういうふうに恋に落ちたのだろう。

ばかみたいだな。とおれは頭をかいて。
赤い糸を振り切るように、歩き始めた。





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